イマジナリーフレンド・ハッピーエンド

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 洸太は真理衣と頻繁に会うようになった。コウには「彼女と会う時は外して欲しい」と伝えた。上手く話せなくても、彼女には自分の言葉で話したかった。  最初は進学先の相談、そこから読書の話、好きな音楽の話と盛り上がった。彼女もおしゃべり上手ではないが、不思議と沈黙も嫌ではなかった。    何度目かの逢瀬。  喫茶店のテラス席。彼女がフォークを優雅に操りモンブランを口に運ぶのを見ていると、不意に言われた。 「洸太さん、見た目そっくりのアンドロイドがいるけど、えと……失礼かもだけど」  一瞬の沈黙の後。 「ナルシストなの?」  洸太の全身を羞恥心が駆け巡る。 「ち、違う!」  思わず立ち上がる。ここ数年で一番の大声を出してしまった。周りの視線を感じて座る。 「あ、ごめんなさい。なんでかなって思っただけで 責めてるわけじゃないんです」 「…………」  洸太は答えられず、それきり会話は当たり障りのないものになった。  普段と違い、次会う約束をせずに別れた。  洸太の頭の中で疑問がふつふつと沸騰する湯のように湧いて出る。  なぜ、俺は自分そっくりのアンドロイドにした?  友人のように好みの女性でもなく、指摘された母の姿でもなく。  ナルシスト?いや違う。  父親に殴られていた昔を思い返す。自分のことなんて、むしろ嫌いだったはず。  博士に聞かれたときはなにか理由があったはずだ。  思い出せない。 「洸太、疲れた?」 「大丈夫だ」  洸太の母親と同じ、心臓の病気が見つかってから、コウはこまめに聞いてくる。無意味な質問だ。彼は洸太の体調を把握している。  なぜ自分はこんな会話をするようプログラムしたんだっけ。  一方、コウは病気とは無縁だ。社員、取引相手、家族、とそつなく会話をこなし完璧にコミュニケーションをとれる。洸太は好きな相手との会話だって行き詰まるのに。  社長室で仕事の話をした後、コウは最後に付け加えた。 「宮郷真理衣と付き合うのはやめた方がいい」 「何言ってるんだ」 「彼女、洸太の病気がわかってから、資産状況を調べてる」 「……」 「実家の警備記録によると、彼女は現在、依子と会ってるみたいだ。直接聞いてみたら?」  僕は少し急ぎの用事がある、とコウは部屋を出て行った。  実家の食堂から笑い声が聞こえた。妹と母、それに真理衣の声。 「洸太そっくりのあの機械、気持ち悪いったらありゃしない。洸太もお金になるAI開発だけ全力を注げばいいのに」 「お母様、最近はお兄様の方が会社ではお荷物扱いらしいですわよ。消えるのならお兄様のほうがよろしいかと」 「そうなの?その前にもらえるものはもらわないとね。真理衣、あなたそろそろプロポーズしたら?籍を入れた後に洸太が死ねば会社もコウも、全て私たちの財産になるわ」 「」  真理衣は笑った。見たことがない、希望に満ち溢れた楽しそうな笑顔だった。  洸太の中で、張り詰めていた糸がぷつん、と切れた。
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