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世間は大騒ぎになるという洸太の予想に反し、平和な日々が続いた。
コウの仕事データのバックアップで、会社は通常通り営業していた。
「コウは、近いうちに自分がいなくなるかもって準備していたんです。……まさか社長がその原因になると思いませんでしたけど」
社員たちが洸太を見る目だけが変わった。
とても会社にはいられなかった。研究の権利を部下に譲り、洸太は一線を退いた。
実家に戻った洸太は、機材を持ち込みコウの再現を試みた。
しかし何度やっても彼の面影はない。
「僕はコウだよ。データを完璧に復元した。初代と変わりないよ」
「……」
「洸太」
「……違う」
何かが足りない。
初めてコウを作った時とはまるで違う。
寝る間を惜しんで再現を試みる中、洸太は倒れた。余命わずかだと宣告された。
寝たきりになり、抜け殻のように過ごす。父親は、洸太が母親と同じ病気だと判明してから急に献身的になった。遺産目当てか、母の姿と重ねて後悔しているのか――洸太にはもう、どうでもよかった。
「洸太、今のはいい手だった。すごいな、3回連続で勝つなんて」
「疲れてるね。無理しなくていいよ」
「洸太はいつもがんばっているもの」
洸太が当たり前に聞き流していた、コウのあたたかな言葉がリフレインする。どれだけ彼に依存していたのか今更ながらにわかる。コウを失った洸太は、生きる気力をなくしていった。
真理衣ははじめての見舞いで婚姻届をちらつかせてきたので追い払った。怒った依子が部屋に飛び込んできたが、初めて目にする泣きじゃくる洸太の姿に毒気を抜かれて立ち尽くし、やがて去っていった。
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