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子供の頃の記憶はろくなもんじゃない。
「だって依子が先に僕の本を取ったから」
「口答えをするなと言っただろ!」
父親に殴られる事はしょっちゅう。優しかった母は病死し、10歳の洸太をかばってくれる者はいない。新しい母は哀れむような表情をするものの止めはせず、さっきまで泣いてたはずの腹違いの妹、依子は涙を引っ込めてにやにやとこちらを見ている。
使用人たちは見て見ぬふり。父親が怖いのだ。屋敷にいる父は絶対的な君主として君臨していた。
「なんだその目は! とっとと部屋から出て行け!」
怒られて自室へ、そこから更に屋根裏へ逃げる。
それがいつもの流れだった。屋根裏の雑多な家具の中に座り、相棒と話し合う。
「まったく、ひどいことをするよね。洸太は悪くないのに」
「コウもそう思う?」
「もちろんさ。君は悪くない。最初に本をとったのも、手を出したのも妹じゃないか」
「そうだよね」
はたから見たら、洸太が小さなロボットに話しかけているようにしか見えないだろう。
ロボットのおもちゃは、母からの誕生日プレゼントだ。友達ができない洸太に、なんでも話せる相棒を贈ってくれた。
おもちゃながらにAIを搭載し、会話できる機能が売りだったが、洸太は電源すら入れていない。最初は入れていたけど、求めていた答えは返って来なかった。だから洸太は一人で話し、答えを想像する。
「知ってるかい? 君みたいな存在を空想上の友人、イマジナリーフレンドというらしいよ」
「そうらしいね」
「ちぇっ、あんまり驚かないんだね」
「だって僕は君だからさ、洸太。君が知ってることは僕も知ってるよ」
「それもそうか」
イマジナリーフレンドは、人間関係がうまく行っていない子供が形成しやすい、とまでは口に出さなかった。口にすればなおのこと惨めになる。自分に問題があるのはわかりきっていた。父親、新しい母、妹、友達……「こう言えば相手は喜ぶだろう」という言葉はわかるのにどうしても口に出せない。思ったことをそのまま言ってしまう。そして喧嘩になる。
新しい母、妹とも最初のうちは上手くやろうとしたがダメだった。10歳の洸太にとって亡くなった母の存在はあまりにも大きく、立ち直らないうちに父親が新しい母を連れてきて、その日にした大喧嘩から今日まで父親は暴力に訴えるようになる。
以前自分の部屋でコウと話していたら、新しい母に見られて告げ口され、「女々しい真似をするな!」と父親にロボットを捨てられた。ゴミ捨て場をあさって回収してからは屋根裏でこっそり、洸太はコウと会っていた。
ここでなら安心して自分の気持ちを話すことができた。
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