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ヨシ 32歳。バーのママ。ヤスと付き合っている。
昔は女好きだった。
ヤス 31歳。化粧品会社の凄腕営業マン。
普段はオネエであることを周囲に隠している。
ヤスの会社のオフィス
ヤスM あぁん、もう、どうしてこうなるのよ！
明日はヨシさんと初めての
お泊まりデートなのに
資料の提出忘れてたなんて！！
……完全に浮かれてたわ……
こうなれば今日中になんとかするわよ！
翌日の早朝 ヨシの家
ヨシM もう、ヤスってばなにやっているのかしら…
早めに来てメイクしてくれるって言うから
準備してたのに来ないじゃない…！
もう１時間以上遅刻じゃない！
あ、もしかして…事故にでもあったのかしら…
はっ！他に男ができたのかしら！？
いやだ、あたし、どうすればいいの…。
ヤス ヨシさん、ごめんなさい！
遅くなった！！
ヨシ ああん！！よかった！
心配したじゃな…ってどうしたのよ！
その顔！！ひっどいわね！？
ヤス いや、その、仕事でちょっとヘマやらかして…
その後始末をしていたら徹夜する事になって…
…一睡もしてないのよ…。
ヨシ あらやだ！！
そうならそうと連絡よこしなさいよ！
ヤス ごめんなさい！
連絡する暇もなかったのよ。
ヨシ もういいわ！出発までまだ時間あるから、
少し横になりなさい！！
ヤス でもヨシさんのメイク…。
ヨシ あんたの体調が優先よ！ほら寝た寝た！
ヤス え、嫌よ！
せっかくメイク道具一式揃えて
もってきたんだから
先にメイクやらせなさいよ！
ヨシ 徹夜明けの顔でフラフラ旅行になんか
行かれたらこっちが心配なのよ！
早く寝なさい！
ヤス 徹夜なんて屁でもないわよ！
早く座りなさい！
やるわよ！！
ヨシ 出発まで時間ないんだから、
ほんとに寝た方がいいわよ！
お肌に悪いわよ！
化粧品会社のエリートが
お肌にそんな仕打ちしてもいいと
思ってんの！？
ヤス グゥ…！
ヨシ ほら、さっさと寝る！
ヤス …はい。
間
ヨシ ヤス、起きて。出発するわよ。
ヤス あ、はい、おはようございます…って、え！？
予定の時間より2時間遅いじゃないのよ！
ヨシ だって気持ちよさそうに寝てるから、
起こすのもったいなくて…
ヤス もったいなくて…じゃないわよ！
これじゃ、ヨシさんが観たいって言ってた
映画、もう間に合わないじゃない…。
ヨシ それはいいのよ。
ヤス よくないわよ！
楽しみにしてたんでしょ！？
ヨシ そんなことよりも、体調はどう？
少しはマシになったかしら？
ヤス そんなことって何よ！
ヨシさんにとってはすごく楽しみに
してた作品でしょ！？
ヨシ そうだけど、ヤスの体調の方が
大切でしょう。どう？
ヤス ……そりゃ、だいぶマシになったけど…
と、とにかく、急いでメイクするわよ！
間
ヤス 下地も、ファンデも、うちの会社で
一番人気を準備してみたの。
ヨシ いつも悪いわね。夜の仕事だからお肌、
ガサガサでしょ？
ヤス そんなことないわ！
とても塗りやすくて、綺麗な肌よ。
ヨシ さっきまでくま作って寝ていた人が
口説くんじゃないわよ。
ヤス 私自身も使っているファンデで、
気に入っているの。
ヨシ あら、そうなの。
今度クチコミで広めようかしら。
ヤス 贔屓にして欲しいわ。
そしたらまた売り上げ上がるし。
ヨシ ほんとに仕事熱心なのね。
出世コースまっしぐらなんじゃない？
ヤス 出世はあまり興味ないわ。
ヨシ どうしてよ？
ヤス だって中間管理職とか
死んでもなりたくないわよ。
ヨシ …なんで？
ヤス 残業は増えるし、責任は増えるし、
気軽にヨシさんのお店に
行けなくなるじゃない…。
ヨシ そ、そう…。
…あら、この色いいじゃない！
ヤス アイブロウの色、いいでしょ？
あえてパウダータイプと合わせて使うことで
自然な色を出すことができるのよ。
ヨシ ほんと、ヤスのメイクでデート、
楽しみだわ。
ヤス ……。
旅行先のアーケードモール
ヨシ ヤス！次あそこ！あそこ行くわよ！
ヤス ちょ、ヨシさん、ちょっと待って！
ヨシ もー！荷物全部よこしなさい！
あたしが持って歩くから！
ヤス ヨシさん、色々買い過ぎじゃないの！？
ヨシ だって普段こんなに好きなもの
買い漁ることないんだもの！
ヤス だからって、これから旅行の
メインになるのに、今お土産とか
服とか雑貨買いまくってどうするのよ！
重くなるじゃない！
ヨシ そんなの気にしないわ！
私が全部持つんだから！
ヤス …くそ、マジ男前すぎて腹立つ…！！
ヨシ 何か言った？
ヤス いいえ、なんでもないわよ！
ヨシ 次はネイル用品を買いに行きたいわね…。
ヤス あ！ヨシさん！ヨシさん！
ここの近くに美味しいランチの
お店があるから、行きましょう！
ヨシ …ええ、いいわよ。
ヤス …え？休業！？
ヨシ 『本日は店長、傷心の旅に
発ったため休業します。
どうかご理解をお願いします。』
ヤス ……。
ヨシ ……。
ヤス ……は？
ヨシ ……店長さんに何があったのかしらね…。
ヤス …なんで今日に限って…。
ヨシ ま、まぁ、こんな日もあるわよ。
ヤス せっかくヨシさんに美味しい
ナポリタン食べさせて
あげたかったのにぃ…！！
ヨシ な、ナポリタン…？
ナポリタンなら、他のお店でも
食べられるんじゃないの？
ヤス 違うのよ！
ここのナポリタンは、
去年の『ナポリタンスタジアム』で
１位になったのよ！
実質今ここが日本一のナポリタンの
お店と言われている所なのよ！
ヨシ え、そうだったの！？
話では聞いたことあったけれど、
こんなところにあったのね…。
ヤス ごめんなさいね、ヨシさん、
他に何か食べたいもの、あるかしら？
ヨシ …んー、あ、あそこの海鮮丼の
お店なんかどうかしら？
あたし普段、なかなか生のものを
食べる機会ないし。
それに、ヤス、刺身好きだわよね？
ヤス え、あ、うん、そうだけど、
ヨシさんの好きなもの……。
ヨシ え？
ヤス いや、ううん、海鮮丼、食べに
行きましょう。
ヨシ ……？
間
ヤス ごちそうさまでした〜。
ヨシ 美味しかったわね。
ヤス あのマグロの切り身の大きさ、
すごかったわ。
ここのお店もクセになりそう。
ヨシ よし、残りの買い物は明日にして、
そろそろ旅館のチェックインができる
時間だわね。
ヤス そうね。
旅館までは、ここから歩いて
15分程だけど、荷物が荷物だから、
タクシー呼ぼうかしら。
ヨシ ……。
ヤス ちょっと待っててね、今呼んでく…
ヨシ 歩いて行くわよ！
ヤス えっ！？
ヨシ だって歩いて行った方が、
気兼ねなく話せるし、
周りの景色を楽しみながら
いけるじゃない？
ヤス …？……！？ちょ、ヨシさん、
手、手！いいんデスカ！？
ヨシ 何よ！？別に今更気にする
間柄でもないでしょ！？
ヤス そ、そうだけど…！
ヨシ さ、温泉前に、いい汗かくわよ！
温泉旅館
ヤス ヨシさん速いわよ！
なんであの荷物量であんなに
速く歩けるの……。
ヨシ あら、ごめんなさい。
明日はもう一つ多く、
あたしが持つわよ？
寄越してね？
ヤス いえ、流石にこれ以上は
持たせるわけにはいかないので
持たせてクダサイ。
ヨシ あらそう？
でもしんどいなら、いつでも
言ってね？
ヤス ……。
ヨシ さて、早速温泉にでも行こうかしら。
ヤスはどうする？
ヤス 私は……ちょ、ちょっと休んでから
行こうかしら。
ヨシ そう、それなら先に行ってるわね。
落ち着いたら、来るといいわ。
ここ、いろんな種類の温泉があるみたいね。
楽しみだわ！
ヤス そうね、先にゆっくり
浸かっててちょうだい。
ヨシ わかったわ。じゃ、また後でね。
間
ヤスM あぁぁぁ、もう今日はダメダメよぉ！！
ちょっと待って、これから温泉！？
そうよ、前から温泉って
言ってたじゃない！
温泉っていったら、え、何！？
やだ、裸！！
は・だ・か！！
そうよね、同性だから同じ温泉に入るに
決まってるわよね！！
…はぁ、ヨシさんの裸って、
どんな感じかしら…。
あんなに荷物持ってても競歩選手並みの
速さで歩けるなんて、絶対ムキムキに
決まってる…。どうすれば…。
と、とりあえず、落ち着いて、
ヨシさんのところに行くわよ…！！
ヨシM ふふふ、もう本当にヤスってば
かわいいわぁ。
本当にあの一生懸命なところが
堪らないのよね。
きっと浴槽に入るときだけでも
緊張して全身カチカチになってるかもね。
あ〜、だめ、考えるだけで
笑いが出てきてしまう……。
間
ヤス お、お待たせ。
ヨシ いらっしゃい、ヤス。
隣、どうぞ。
ヤス えぇ。
ヨシ ……。
ヤス ……。
ヨシ とっても気持ちいい…。
お肌ツルツル。
ヤス それは、よかったわ。
ヨシ ……。
ヤス ……。
ヨシ ヤス、緊張してる？
ヤス え、や、な、何も緊張なんて、
し、してななないわよ！
ヨシ ふふふ。
ヤス ね、ねぇ、ヨシさんって、ジムとかに
通ってるの？
ヨシ あぁ、そうねぇ、
言ってなかったかしら。
週に２回、短時間だけどジムに
通ってるわ。
ヤス そ、そうなのね。
だからあんなに体力があるのね……。
すごいわ。
ヨシ それに、普段から商品の仕入れや
材料の運び入れなんかも
全部自分でやってるから、
多少は体力があるってだけ
じゃないかしら？
それにあんた、徹夜明けでしょ？
ヤス それでも大した体力だと思うわよ。
ジム行って、仕込みして、
お店経営して……。
ヨシ そんな大したことじゃないけれど
褒められると嬉しいわ。
ヤス 私も30超えたし、
通ってみようかしら。
ヨシ あらほんと？
もしよければ紹介するわよ？
ヤス 助かるわ。どんなジムか
教えてほしいわ。
ヨシ わかった。お酒飲みながら、
じっくり教えてあげる。
……さて、私は先に上がるわね。
長風呂しちゃったから、
少しほてっちゃった。
ヤス あ、ごめんなさいね。
待たせてしまったから…。
私も早めに上がるわ。
ヨシ ふふ、ゆっくりでいいのよ。
部屋で私もまったりしてるから。
ヤス うん。
…………はぁぁぁ、なんかもう、
私ものぼせそう……。
間
ヤス あ〜、ここの旅館の地酒と料理、
美味しかったわね！！
あと、これ、余った分部屋で飲んでいいって
言ってたわ。
今日はとことん、いっちゃいましょ。
ヨシ そうね。売店でもお酒あったから、
追加して部屋に戻りましょ。
ヤス 賛成。
えっと、これと、こっちも
買って、あ、つまみも忘れちゃ
いけないわよね。
ヨシ そうね。
ヤス ……よし、部屋戻るわよ〜。
ヨシ ヤス、ご機嫌ね。
ヤス だって〜、ヨシさんと２人でデート
なんて最高じゃなぁい。
ヨシ ふふ、そうね。
ヤス あ、お部屋、布団敷かれてるわね！
ヨシさんどっちで寝ます？
ヨシ どっちにしようかしら？
ヤス それとも片方に一緒に寝ます？
ヨシ あ〜それもいいわね！
…完全に酔っ払ってるわね……。
ヤス まだ時間あるから、
今夜は語り明かすわよ！
ヨシ 徹夜明けの体なんだから
ほどほどにしなさいよ。
ヤス え〜嫌よぉ！
せっかくのお泊まりデートなんだから
もっとヨシさんと飲みたいぃぃ！
ヨシ ヤス、もう２０代の頃とは違うんだから
酒の飲み方くらいわかってんでしょ。
ヤス っていうか、
どうしてそんなにヨシさんは
かっこいいのよ！
普通1時間以上遅刻したら
怒るでしょ！？
その上、ぶっ倒れてデートの
出発時間2時間も遅くなったあげく、
好きな映画も観られなくなって…！
ヨシ な、何よ突然………。
ヤス 重たい荷物を持ってくれる上に
昼食は私の好きなもの選んでくれるし……。
ヨシ ……ん〜…。
それは、あたしも
ヤスにはかっこいいところ
見せたかったからさぁ。
ヤス でも限度ってものがあるでしょ！
……これからは、私がだらしなかったら、
ちゃんと怒ってよ……。
ヨシ そう？まぁ、考えとくわ。
ヤス それに、今日、私いいとこ無しなのよ！
ランチもまさか休業してるなんて
知らなかったし……。
ヨシ あれは仕方ないことでしょ。
ヤス 私が、ずっと手を繋ぐことすら
躊躇ってきたのに、あんな、
公共の場であっさり繋いじゃうし…。
周りの人には…笑われるし……。
ヨシ …あ〜…嫌だったかしら？
ヤス ……嫌…じゃなかった…。
でも、初めてだったから…。
ヨシ でも昔彼女とかいたんじゃないの？
ヤス オネエを隠して生きてきたときは
何人かと付き合った時があったけど……。
ヨシ ……その女たち、今も生きてる？
ヤス 何物騒なこと言ってるのよ！！
ヨシ だってあたしのヤスと手を繋いだり、
あんなことやこんなことをするなんて！！
ヤス ヨシさんも十分酔ってるじゃないのよ！
人のこと言えないじゃない！
……それに、あんなことや
こんなことなんて、ないまま、
別れちゃったから……。
ヨシ え〜なんでよ？
ヤス 昔巨乳好きだったヨシさんとは
違うのよ！
純情を弄ばないでちょうだい。
ヨシ あぁ、性癖が合わなくて
進めなかったのね。
ヤス あぁん、言葉にされると結構
刺さる！！
ヨシ あはは。
……ねえ、どう？初めて同性と
付き合ってデートした感想は。
ヤス ……ん〜…。
こんなに自然体でいられる相手と
一緒に過ごせたのは初めてだわ。
ヨシ そう？よかったわ。
ヤス それに、温泉に…入ったとき…
……その…。
ヨシ ……？
ヤス かっこいいというか……綺麗、
というか……なんて言ったら
いいのかしら……。
ヨシ あぁ！エロいと思った！？
ヤス ぶふっ！！
ヨシ やだぁ、ちょっと勿体無いこと
しないでよぉ。
ヤス ヨシさんがどストレートなことを
言うからでしょ！？
ヨシ だってヤスがはっきり
しないからでしょ！？
ヤス なんなのよ！そうよ！
そうですよ！
エロいと思ったわよ！
悪いかしら！？
ヨシ やだ、ちょっと
開き直らないでちょうだい！
ヤス ほら、空いてるわよ。
飲んで飲んで。
ヨシ そんなに飲ませてどうする気？
ヤス そうねぇ、どうしようかしら。
ヨシ ヤスもおちょこの中が少ないわよ。
どうぞ。
ヤス ……ありがとう。
ヨシ ……ヤス、ここの予約を
してくれたり、
行き先を決めてくれたり
してくれて、本当にありがとう。
ヤス 何よ、当然じゃない。
…好きなんだから……。
ヨシ ……これからも、よろしくね。
ヤス もちろん。
END
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