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「ありがとうございます……」
「……そういえば、旭さんが静かだね」
柊が傍らの旭を見ると、うとうとと船を漕いでいた。
「あ、回復反動か」
「そういえば……!旭、起きて」
「は、はひ!?」
「付き合わせちゃったかな?溺れちゃう前に上がろう」
「はい……」
柊は眠たげな旭の手を引き、湯船を出た。
「清野さん、花琳さん、おやすみなさい!」
「柊ちゃん、旭ちゃん、おやすみ!」
「ゆっくり休んでね」
「おやすみなさい……」
眠そうに目をこする旭を支えながら、柊は大浴場を出た。
* * *
「旭、部屋についたよ」
「はい……初日から手間をかけてすみません……」
眠たいながらも手を引いてもらったことを気にする旭に、柊は苦笑いした。
「気にしすぎ。回復反動に気づかなかった私達にも落ち度はあるんだから」
「そう……ですかね」
「そうそう。ほら、早く寝よう」
柊は旭が布団の中に入ったことを確認して電気を消した。
「寒くない?」
「大丈夫です……それより、あの」
「うん?」
「ありがとうございます。一緒にいてくれて……お風呂の中での会話も、普通の女の子になれたみたいで、聞いてて楽しかったです」
「普通の女の子……?」
「はい。私、アビリティが2つあるせいで、ずっと研究施設にいたんです。同い年の女の子の友達なんて、いなかった」
「そうだったんだ……」
「……だから、一緒にいてくれるだけで嬉しいです。柊さん、ありがとうございます」
そう礼儀正しくお礼を言う旭に、柊は穏やかに告げる。
「柊でいいよ。旭」
その言葉に一瞬驚いた旭だったが……やがて、嬉しそうに微笑んだ。
「……柊、おやすみなさい」
「おやすみ」
しばらくすると寝息が聞こえてきた。柊は天井を見つめながら、旭と聖夜のことを思い返す。
(……聖夜も旭も、お互いと会えてすごく嬉しそうだった。2人とも優しくていい人だし、お似合いだなって私も思う。だけど……)
柊は寝返りを打ち、旭に背を向ける。
(聖夜と旭が付き合ったら、私、どうしたらいいんだろ。今まで聖夜の隣にあった、私の居場所……無くなっちゃうのかな)
そこまで考えて、柊は体を丸めた。胸の中に、冷たい風が吹き抜けるような……そんな心地がした。
(……考えても仕方ないよね。どうするか決めるのは2人だもん。明日もあるし、早く寝なきゃ……)
そう自分に言い聞かせて、柊はそっと目を閉じた。
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