28 旭と柊

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「ありがとうございます……」 「……そういえば、旭さんが静かだね」  柊が傍らの旭を見ると、うとうとと船を漕いでいた。 「あ、回復反動か」 「そういえば……!旭、起きて」 「は、はひ!?」 「付き合わせちゃったかな?溺れちゃう前に上がろう」 「はい……」  柊は眠たげな旭の手を引き、湯船を出た。 「清野さん、花琳さん、おやすみなさい!」 「柊ちゃん、旭ちゃん、おやすみ!」 「ゆっくり休んでね」 「おやすみなさい……」  眠そうに目をこする旭を支えながら、柊は大浴場を出た。 * * * 「旭、部屋についたよ」 「はい……初日から手間をかけてすみません……」  眠たいながらも手を引いてもらったことを気にする旭に、柊は苦笑いした。 「気にしすぎ。回復反動に気づかなかった私達にも落ち度はあるんだから」 「そう……ですかね」 「そうそう。ほら、早く寝よう」  柊は旭が布団の中に入ったことを確認して電気を消した。 「寒くない?」 「大丈夫です……それより、あの」 「うん?」 「ありがとうございます。一緒にいてくれて……お風呂の中での会話も、普通の女の子になれたみたいで、聞いてて楽しかったです」 「普通の女の子……?」 「はい。私、アビリティが2つあるせいで、ずっと研究施設にいたんです。同い年の女の子の友達なんて、いなかった」 「そうだったんだ……」 「……だから、一緒にいてくれるだけで嬉しいです。柊さん、ありがとうございます」  そう礼儀正しくお礼を言う旭に、柊は穏やかに告げる。 「柊でいいよ。旭」  その言葉に一瞬驚いた旭だったが……やがて、嬉しそうに微笑んだ。 「……柊、おやすみなさい」 「おやすみ」  しばらくすると寝息が聞こえてきた。柊は天井を見つめながら、旭と聖夜のことを思い返す。 (……聖夜も旭も、お互いと会えてすごく嬉しそうだった。2人とも優しくていい人だし、お似合いだなって私も思う。だけど……)  柊は寝返りを打ち、旭に背を向ける。 (聖夜と旭が付き合ったら、私、どうしたらいいんだろ。今まで聖夜の隣にあった、私の居場所……無くなっちゃうのかな)  そこまで考えて、柊は体を丸めた。胸の中に、冷たい風が吹き抜けるような……そんな心地がした。 (……考えても仕方ないよね。どうするか決めるのは2人だもん。明日もあるし、早く寝なきゃ……)  そう自分に言い聞かせて、柊はそっと目を閉じた。
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