31 西日本支部

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「無理しちゃって……お兄さん1人で倒すからだよ」 「……僕だけじゃない。皆で戦って勝ったんだ」 「そんなこと言って……とどめを刺したのはどっちもお兄さんでしょ。他は弱い。つまり……お兄さんが居なくなれば私達の邪魔はいなくなる」 「そんなこと……ごほっ……」 「あはは!苦しそう!いっそ楽に殺してあげる……ね、お姉さん」  エリスは花琳を見てニヤリと笑った。 「……何よ」 「お姉さん、辛くない?ずっとお兄さんのことを想い続けるの……ずっと報われないままでいるの」 「……何が言いたいの?」 「自分の物にならないなら……殺したくならない?」 「そんなことないわ!私は、白雪君のことを殺したいなんて……」 「強がっても無駄。『私の言うことを聞いて』」 「うっ……」 (……頭が霞む。意識が……) 「『お兄さんを殺して』」  エリスの言葉が、花琳の頭に響く。花琳の視界が、黒く塗りつぶされていく。 * * * 『ねぇ、苦しいね』  真っ黒な世界の中、花琳の目の前に現れたのは、若葉色の髪をお下げにした、白いワンピース姿の、12歳ぐらいの少女だった。 (この子……昔の、私……?) 『お母さんは、海奈のことばっかり責めて、私の方には見向きもしない』  昔の花琳は、1歩ずつ花琳に歩み寄ってくる。 『お父さんは、自分のことばっかりで、私達のことを捨てた』  昔の花琳は、苦しそうに目を潤ませながら、花琳の首へ手を伸ばす。 『私のことなんて、誰一人として見ていない』  首へ手をかけられ、花琳は息を飲む。振り払わないと……そう思うのに、体が動いてくれなかった。 『お父さんとお母さんみたいに……白雪君も、きっと私のことを捨てるよ』  花琳の首が締まる。息が苦しくなり、どんどんと意識が朦朧としていく。 『だから、消すの』  昔の花琳は、泣きながら笑った。 『捨てられるぐらいなら、自分から手放した方が楽だわ』 「ぐっ……、だ、め…………そんなこと、しちゃ……」 『私に、その体を寄越して』  霞む意識の中、昔の花琳は悲しそうな笑い声を上げた。 『あなたを捨てる人間を、全部消してあげる……!』  その笑い声を聞いた瞬間、花琳の意識が無くなった。 * * *  黙り込んで動かなくなった花琳の顔を、白雪は心配そうに窺った。 「花琳……?」 「……」  しかし、次の瞬間、花琳は白雪を思い切り突き飛ばした。 「白雪!」  杏子が辛うじて白雪を受け止める。 「花琳!目を覚ませ!!」 「……」  花琳は腰のポーチから拳銃を取り出し白雪めがけて発砲した。 「危ないっす!」    まなとが白雪の前に躍り出た。銃弾がその体に当たる。 「うっ……」 「まなと君……!」 「……大丈夫っす。俺、アビリティのお陰で体が丈夫っすから」  そうは言うものの、まなとの額には脂汗が浮いていた。銃撃を受けた腹部にはうっすら血が滲んでいる。 「俺のことはいいっすから……早く花琳ちゃんを止めるっす……」 「……でも、どうしたら」 (凍らせる?気絶させる?……手荒な真似はしたくない……でも……)  白雪は唇を噛んだ。それを見たエリスは高笑いした。 「どうしようもないよね!ねぇ、自分のこと好いてる人に殺されるんだよ?お姉さんはずーっとお兄さんのこと好きだったのにね!」
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