31 西日本支部

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* * *   「……あの日、花琳が僕の夢を後押ししてくれたから……信じてくれたから、僕は今ここにいるんだ」 「……!」  花琳の瞳が僅かに揺らいだ。 「ずっと、君の言葉を支えにしてた。誰かのために泣ける君の優しさが、忘れられなかった。姉さんの真似事をして、あの頃の僕を捨てた後も……君への想いを、隠し通そうと決めた後も」  白雪は花琳をそっと抱き締めた。 「好きだよ。ずっと好きだった。だから……戻って来て。花琳」 * * *  花琳は、重たい体を必死に動かし、自分の首を絞める過去の自分の手を、震える手で掴んだ。 「ぐっ……。お願い、聞いて」 『何よ……今更、何を言うっていうの?』  そう言い、過去の花琳は花琳を鋭く睨む。  しかし、花琳は怯まなかった。 「私……あなたに謝りたいの」 『え……?』 「ごめんね。ずっと、無視してて」 『……!』  花琳の言葉に、過去の花琳は驚いた表情を見せ、首を絞める手を離した。 「自分を見てもらえなかったこと。そして、捨てられたこと……。本当はすごく辛かったのに、私……お姉ちゃんだからしっかりしなきゃって思って、ずっと、その気持ちに気付かないフリをしてた」  花琳は、過去の自分の手を、自分の両手で包み込んだ。 「心のどこかで、また捨てられるって思ってたから……白雪君にお礼を拒絶された時は、涙が止まらなかったわ。……でもね」  花琳は、優しい微笑みを過去の自分に向ける。 「私、信じてるの。白雪君は、私を大切にしてくれる人だって。だって……私に見せてくれる優しい笑顔は、私を励ましてくれた時と、何も変わらないから」 『……そう、なの?』 「うん。私には分かる。だって……その笑顔が、ずっと好きだったんだから」  花琳は、過去の自分の手を包み込んだ両手を離し、彼女を両腕で抱きしめた。 「だから、一緒に言いましょう?大好きな人に、大好きって」  そう優しく言う花琳の背中に、過去の花琳の腕が回った。 『……うん』  彼女の、涙声の返事が聞こえたその瞬間、花琳の意識が柔らかく途切れた。 * * *  白雪に抱き締められた花琳の頬を、涙が伝った。そして、その手から、銃が地面に落ちる。 「……白雪君」 「花琳……大丈夫?」 「……うん」  花琳の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。 「白雪君……好き。優しくて、格好よくて、私を励ましてくれた白雪君が、ずっと好きだった……!」  影から解放された花琳は、白雪の胸に顔を(うず)めた。 「……うん。ありがとう」 「正気に戻ったって言うの……!?」  エリスの表情が歪んだ。その様子を見た杏子が、不敵に笑う。   「その通り。君の負けだ。身動きも取れないだろう?このまま拘束して、本部に連行する」 「……嫌。絶対に嫌!まだ終われない!」  エリスが叫んだ途端、氷の中の手に握られたキューブが激しく光り出した。 「なんだ……!?」  光が収まると、そこにエリスはおらず、ただ氷だけが残されていた。 「逃がしたか……」  杏子は悔しそうに舌打ちをした。 「……でも、とりあえず任務遂行じゃないっすか?蜘蛛は全部退治したし、遊園地も元通り……後は花琳ちゃんとお茶できたらパーフェクトだったんすけど……」  まなとはそう言うと、残念そうにため息をつきながら花琳達を見る。それにつられて、杏子も2人の方を見た。 「2人とも、いつまでくっついてるんだ」  杏子に苦笑いされ、花琳は慌てて白雪から離れた。白雪は少し物足りなさそうに花琳を見ているが、花琳は恥ずかしさのあまり彼の顔を見れないでいる。  その真っ赤な顔につられて、白雪の頬もほんのり染まった。 「……俺達はお邪魔みたいっすね」
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