32 北日本支部

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 自身も渦の中にいるというのに、青年は余裕たっぷりの表情を深也に向けている。 (何でこいつは焦らないんだ……いや、そんなことより早く脱出しないと……) 「ほらほら、考えろ!焼き焦げちまうぞ?」  青年に煽られるものの名案が思いつかず、深也は舌打ちした。炎の熱が、じわじわと深也に迫ってくる。  しかし、次の瞬間。 「『渦潮』!」  炎の渦を、水の渦がかき消したのだ。 「海奈!」 「深也、大丈夫か!?」 「う、うん……!」  深也は次の攻撃に備え、青年から距離を取り、仲間達の元へ下がった。  敵のアビリティの強さと、戦い慣れている様子を目の当たりにし、闇雲に近づくのは危険だと判断したのだ。 「俺様の炎を消すとは……なかなかやるな」  青年が、ニヤリと笑って海奈を見る。海奈はそれを睨み返して尋ねた。 「……お前がこの騒ぎを起こしたのか?」   「そうだ。特部を潰さなきゃならないんでな」 「……てことはお前、高次元生物を生み出した敵だな!」  海奈にそう言われ、青年は豪快に笑った。 「その通り!お前達は俺を楽しませてくれそうだから教えてやる。俺の名はイグニ!お前達を倒す男だ!」  イグニはそう言うと、右腕を大きく振るい、大きな青い炎の弾を放つ。 「『激流』!」  海奈は激しい水流でそれを相殺しようとするが、炎の熱で水が蒸発していく。 「何……!?」 「海奈!」  深也が海奈を突き飛ばした。翔太が辛うじて海奈のことを受け止めたが、深也の左腕に炎が炸裂する。 「うっ……!」 「深也!」  深也の制服は袖が焼き切れ、左腕が爛れていた。深也あまりの痛さに左腕を押さえる。   「くっ……」  その様子を見て、イグニは高らかに笑った。 「ははっ!仲間思いとは泣けるな!だがな、ここは戦場だ!そういう奴から命を落とす!」  イグニは、更に火炎弾を深也に向けて放った。 「深也、避けろ!」  翔太は叫んだが、深也は痛みで反応が遅れる。 (駄目だ……当たる!)  その時。 「『召喚』……壁!」  深也達とイグニの間に、突如として大きなコンクリートの壁が現れた。炎は遮られ、深也に届かない。 「な、何だ……!?」
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