8 写し身の怪人

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8 写し身の怪人

「こっちだ」  2人は翔太についていき、ワープルームと書かれた扉を開けた。八畳ほどの部屋の片隅に操作パネルがあり、中央には青白く光る大きな床がある。 「この床に乗るの?」  柊の問いかけに翔太は頷いた。 「ああ。操作は俺がやる。待ってろ」  2人が床に乗ったのを見て、翔太はパネルを操作した。 「埼玉県大宮駅前……ここだな」  床の光が更に強くなる。翔太も床に乗った。 「行くぞ」  その声に合わせて、一瞬で景色が駅構内に変化する。普段なら多くの人が行きかう駅の内部には、なぜか誰もいない。その異様な静けさに、聖夜は違和感を覚えた。 「ここ、大宮駅か……?誰もいないみたいだけど……」 「警察が避難させたんだろう。ほら、早く外に出よう」  戸惑う聖夜に対して、翔太はこのような状況には慣れているようだ。落ち着いた様子の翔太に連れられて、2人も駅から出る。 「きゃー!!」  駅を出るやいなや、女性の叫び声が聞こえた。 「なんだ……!?」  聖夜の視線の先では、緑色の肌をした怪人が、逃げ遅れたのであろう女性に拳銃を突きつけていた。怪人は4つの目をニヤニヤとさせ、この状況を楽しんでいる様子だ。しかし、人の形をしていても、奴もまた高次元生物。特部が速やかに対処する必要がある。 「っ……!た、助けて!!」  女性は目を潤ませながら、震える声で助けを求めている。 「人質か……」  翔太が苦い顔をした。その隣で、柊も表情をこわばらせる。3人が行動できずにいると、遠くから1人の警察官が駆け寄ってきた。 「と、特部だ……!」  駆け寄るなり、警察官は言った。 「助けてくれ……!拳銃が盗まれてしまって……あいつ、知能があるみたいなんだ」 「そのようだな……オペレーター、あいつのアビリティは?」  翔太が通信機に向かって問いかけるが、返事が無い。 「オペレーター……?琴森さん?」 『ひゃ……すみません!オペレーター担当します!真崎日菜子です!アビリティは……』  真崎の慌てる声と、ガサガサと紙をあさる音が聞こえて……通信が途切れた。 「……大丈夫かな」  柊は心配そうに呟く。 「……仕方ない。俺達で作戦を組み立てよう」  翔太は周囲を見渡した。警察官が外でも避難を呼びかけたのか、人影はない。そして、決して広いとは言えないが、『竜巻』が繰り出せるスペースは十分にある。 「……まずは人質の救出だ。俺が注意を引き付ける。聖夜は隙を見て人質を救出してくれ。柊はその援護を」 「分かった!」 「任せて」  2人は翔太に頷いた。 「いくぞ……!」  翔太が右腕を振り上げると、辺りに突風が吹き荒れた。高次元生物の視線が翔太に移る。しかし、鋭い四つ目に睨まれても、翔太は怯まずに、攻撃の構えをとったまま様子を窺った。 「ギィ!!」    銃口が、女性から翔太に向けられた。それと同時に、高次元生物の腕が女性から離れる。 「今だ!」 「おう!」  聖夜は瞬時に加速し、高次元生物から女性を奪い去った。 「大丈夫ですか!?」 「は……はい……」  女性は涙目で頷く。恐怖のあまり震えているが、幸い目立った外傷はない。それを確認して、聖夜は安堵のため息をついた。 「ギィ!?」  高次元生物は女性を奪われたことに驚いて聖夜を凝視する。 「……っ!」  聖夜は女性を庇うように抱いたまま、相手を睨み返した。 「ギィ!ギィー!!」  高次元生物は怒り狂ったように銃を乱発した。 「させない!!」  しかし、その銃弾は柊の能力で速度を失い、空色の光に包まれながらパラパラと落下する。 「ギィィィ!!」  高次元生物は拳銃を捨て、勢いよく右腕を振り上げた。 「来るぞ!」  翔太が叫んだ次の瞬間、竜巻が辺りを襲った。 「聖夜、下がれ!俺が相殺する!!」 「っ……、分かった!」  聖夜は加速し、女性を抱きかかえて戦線から遠のいた。それを確認して、すぐ。翔太は『竜巻』を起こす。 「く……収まれ!!」  翔太の竜巻の方がわずかに上回り、高次元生物の竜巻が消えた。 「相手の攻撃……翔太君のアビリティと同じ!?」  柊の問いかけに、翔太は頷く。 「あいつも風の能力者ってことか……」 「なら、遠距離攻撃に警戒だね」  柊がそう言った瞬間、彼女の目の前に高次元生物が現れた。 「柊!」  翔太は叫んだ。柊に緑色の拳が迫る。体術の心得があるとはいえ、咄嗟のことで柊も対処しきれない。 「……!」 「させるか!」  女性を避難させ戻ってきた聖夜は、2人の間に割り込んだ。 「ぐふっ……!」  聖夜のみぞおちに拳が入る。 「聖夜……!」  柊が、倒れ込む聖夜を抱きとめた。 「2人とも伏せろ!『かまいたち』!」  高次元生物に風の刃が迫る。しかし、高次元生物は不敵に口角を上げた。 「ギィ……!」  高次元生物が手のひらを翔太の攻撃に向けると、風は速度を失い分散してしまった。この能力は……柊の『遅延』と同じものだ。 「何……!?」 『みんな聞こえる?』  通信機から、琴森の大きな声が聞こえた。 『相手のアビリティは『風』じゃない……『コピー』よ!目の前で繰り出されたアビリティを再現する能力なの!』 「つまり……今相手は『風』だけじゃなくて『加速』と『遅延』も使いこなせるってことですか」 『その通りよ』  翔太の声に琴森は答えた。 「そんなの、3人を同時に相手しているようなものじゃない……」  柊の言葉に、琴森が反応する。 『そう。……だから突破口は、みんなの弱点を叩くこと』 「俺達の弱点か……」  翔太は少し考える素振りを見せ……柊に支えられている聖夜に尋ねた。 「立てるか、聖夜」 「……ああ」  聖夜は頷き、よろよろと立ち上がった。 「よし……まだいけるな」  翔太は高次元生物を睨みつけた。 「……一斉攻撃だ。畳みかけるぞ」 「闇雲に攻撃しても駄目なんじゃ……」  柊が不安そうに言った。しかし、翔太は2人を真っ直ぐに見据えて答えた。 「俺を信じてくれ。頼む」
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