36 『命』

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* * *  聖夜は気が付くと、何も無い、真っ白な空間に立っていた。 「ここは……?」  辺りを見渡すが何も無い。どうすれば良いか分からなくて、聖夜が途方に暮れた時だった。 「聖夜」 「え……?」  聖夜が聞き覚えのある声に振り返ると、旭が微笑みながら立っていた。 「旭……ここがどこだか分かるか?」 「ここは……『命』の受け渡し場所」 「命の……?」 「うん。私のアビリティが作り出した、魂の世界」 「魂の世界……そうだ、俺、撃たれて……」  聖夜が撃たれた胸の辺りに手を当てるのを見て、旭はくすりと笑った。 「ふふ……ここに体は無いから、怪我してても分からないよ」 「あ、そっか……あはは!」  聖夜も旭につられて笑う。しばらく2人で笑い合って……やがて、旭が聖夜の胸に手を当てた。 「旭?」 「私のもう一つのアビリティの『命』はね、自分の命と引き換えに、他の人の命を救うアビリティなの」  旭の手が輝き、その光が聖夜の体に移る。日だまりの中に居るような温もりが、聖夜を包んだ。 「私の命……聖夜にあげる」 「そんなことしたら旭が!」 「……いいの。貴方は世界を救う人だから」  旭はそう言って優しく微笑む。 「短い間だったけど、聖夜と居られて……普通の女の子になれた気がしたの。本当に楽しくて……研究所に閉じ込められてたことも、未来人に捕まってたことも忘れちゃうくらい、明日が楽しみだった」 「旭……」 「誰よりも優しい聖夜に会えて……私、幸せだったよ」  やがて、聖夜の体が消え始める。 「……そんな……嫌だ!旭!!」  必死に叫ぶも空しく、聖夜の体が完全に消え去った。旭は聖夜の居た場所を見つめ、優しく呟いた。 「さよなら……私のヒーローさん」 
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