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* * *
3人が帰還すると、ワープルームの前で真崎と琴森が待っていた。3人が部屋から出てくるなり、真崎は勢いよく頭を下げる。
「申し訳ありませんでしたっ……!私が、すぐに敵のアビリティを見抜いていたら……」
肩を震わせながら、3人に謝罪する真崎に対して、聖夜は普段通りの穏やかな笑顔を向ける。
「今日が初めてだったんだから、仕方ないですよ」
「で、でも…………っ」
真崎は顔を上げて反論しようとしたが、聖夜の腫れた頬を見て固まってしまう。自分のミスで隊員が怪我をしてしまった。その事実を前にして、恐怖と自責の念が頭の中をぐるぐると駆け巡った。
固まってしまっている真崎を見た琴森は、少しため息をついて彼女の背中を軽く叩く。
「そうとも言ってられないわ」
「ひゃっ!?」
「聖夜君、かなりの怪我を負ったわよね。それは今回のオペレーションにも原因がある」
琴森は真剣な顔を聖夜に向けた。
「初めてだったから仕方ない部分もあるけど、私達の仕事は隊員をサポートし、守ること。今回はそれが為されなかった。本当にごめんなさい」
頭を下げる琴森に、聖夜は首を振る。その表情は、やはりいつも通りの優しいものだった。
「過ぎたこと気にしても仕方ないですよ。俺なら大丈夫だから」
そんな聖夜を見て、翔太は溜息をついた。
「とりあえず、聖夜を医務室に連れて行きます」
「……そうね。柊さんにも医務室を教えてあげて」
翔太は頷き、聖夜と柊を連れて医務室に向かった。
* * *
「ここが医務室だ」
翔太は玄関のすぐ隣にある部屋の扉をノックする。すると、部屋の中から間延びした返事が聞こえてきた。
「はーい。どうぞー」
部屋の中に入ると、丸眼鏡を掛けた、お団子頭の女性がパイプ椅子に座っていた。女性は眠たげな表情で聖夜を見ると、のんびりとした声で呟く。
「おや、これは酷いなぁ……」
女性は、ゆったりとした足取りで聖夜に歩み寄る。突然近寄られて、聖夜は表情を強張らせた。しかし、女性はそれを気にも留めない。
「待ってね、今治してしまおう」
そう言って女性が聖夜の顔に触れると、みるみるうちに腫れが引いた。
「はい、おしまい」
「え!もう治った!?」
聖夜は自分の顔を撫でながら目を丸くする。確かに、顔の腫れは引いていた。その様子を見ていた柊も唖然としている。女性は2人の様子に動じる様子もなく頷いた。
「顔はね。他に痛むところは?」
「えっと、みぞおちも殴られてて……」
「どれどれ……」
女性は聖夜の服を容赦なく引き上げた。女性の突然の行動に、聖夜の顔は真っ赤になる。恥ずかしかったのだ。
「う……!?」
「あー、なるほどね。骨は折れてないようだ」
女性はそう言ったものの、聖夜のみぞおちは大きく内出血していた。その痛々しい様子に、傍にいた翔太は顔を顰める。
「大丈夫だと思うけど……ここも一応治しておこうか」
女性が触れると、内出血がみるみるうちに治った。
「痛まない?」
「は、はい……」
赤くなりながら服を戻す聖夜を見て、柊は笑いを堪えるのに必死だった。一方の翔太は、聖夜に気の毒そうな顔を向けつつ、フォローを入れる。
「清野さん、こいつ初めてですから……」
翔太がそう言うと、女性は、はっとして口元を手で隠した。そして、まだ顔を赤くしている聖夜に向かって微笑みを見せる。
「これは失礼。私は清野やよい。特部中央支部医務室で働いているよ。怪我や体調不良の際は遠慮無く訪ねてくれ」
「この通り変わってるけど、腕は確かだから安心して良い」
戸惑う聖夜に、翔太は落ち着いた声で言った。そう言われても、まだ、何とも言えない恥ずかしさが消えない聖夜は、小さな声で清野に答える。
「宵月聖夜です……よろしくお願いします……」
「宵月柊です……よろしく……ふふっ……お願いします」
警戒したままの聖夜と、笑いを堪えている柊に、清野は平然と頷いた。
「うむ。回復反動があるから、聖夜君は少し休んでいくと良い」
「回復反動?」
聖夜が首をかしげると、清野は落ち着いた様子で解説する。
「私のアビリティ『回復』はね、平たく言うと体が持ってる『治す力』を最大限に引き出す能力なんだ。だから、反動で疲れが出るんだよ」
「言われてみれば……何か眠くなってきたかも……」
「奥にベッドがある。そこで休むといい」
聖夜は戸惑いながら頷いた。
「じゃあ、私達先に戻ってるね」
柊と翔太を見送って、聖夜はベッドに横になり、布団を被って目を閉じた。医務室に飾られた掛け時計の、秒針を刻む規則正しい音に眠気を誘われ、聖夜の意識がふわりと途切れた。
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