37 過去

7/14
前へ
/232ページ
次へ
「あ、ちょっと待って!」  しおりも立ち上がり、2人をもう一度抱き締めた。 「か、母さん!?」 「お母さん!?」 「これで最後だから!聞いて?」  しおりは少し間を置いて、口を開いた。 「まず、聖夜。あんまり我慢しちゃ駄目よ。何でもかんでも仕方ないって諦めちゃ駄目。悲しくて辛い時は泣いてもいいの。自分に正直にね」 「母さん……」  聖夜の脳裏に、母の死に際が蘇った。  あの日、涙を流す父と柊の隣で、聖夜は……泣けずに、ただ母を見つめることしかできなかったのだ。  悲しい気持ちや、寂しい気持ちを見ないフリして、ずっと、流したかった涙を抑え込んでいた。 (そういえば、母さんが死んだ時も泣けなかったんだ……仕方ないって思って、我慢しなきゃ壊れちゃいそうで……) 「約束できる?」 「……うん」 「よろしい!……柊は、無理しちゃ駄目。一生懸命になるのはいいけど、自分を大事にしなさい。分かった?」 「……分かった」 「……よし。約束ね」  しおりは2人から離れて、優しく微笑んだ。 「聖夜、柊……ずっと応援してるからね」 「……母さん、ありがとう」 「お母さん、私達頑張るから!」  聖夜と柊は、しおり笑顔を向けた。 「……柊、行こうか」 「うん」  聖夜と柊は千代美について行き、病院を後にした。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加