37 過去

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「旭は自分で、君を救うことを決めたんだ。命を懸けて守りたい人に出会えて、あの子はきっと幸せだったはずだよ」 「でも……そうだったとしても、俺を助けたから、旭が……!」 「……君は優しいね。大丈夫。大丈夫だから……涙を拭きなさい」 「え……?」  千代美からハンカチを手渡されて、聖夜は初めて自分が泣いていたことに気付いた。 「俺、泣いてる……?」  聖夜は自分の目元を触った。すると、確かに雫が手に触れる。 「俺、なんで……?母さんが死んだ時ですら、泣けなかったのに……」 「聖夜君……」 「あ、ご、ごめんなさい!すぐ収まりますから……」 「聖夜君、泣いていいよ」 「え……?」 「我慢しなくていい。ここには私しか居ないから……自分に正直になりなさい」 『自分に正直にね』 「あ……」  聖夜の脳裏に、病院で母に言われた言葉が蘇った。その瞬間、涙が堰を切って溢れ出す。 「っ……ごめん、なさい……止まらなくて……」 「謝らなくていいよ」 「うっ……本当に、ごめんなさい……俺……俺……」 「……うん」  静かに背中を擦ってくれる千代美に対して、聖夜は声を震わせながら、心の奥底の本音を打ち明ける。 「俺、生きてて欲しかった。旭に……生きてて欲しかった……!」 「……そうかい」 「旭と一緒に、色んな物が見たかった……!色んな場所に行きたかった……!もっと……笑い合いたかった……!会ったばかりなのに……変、ですかね?」 「……変じゃないよ。大事なのは時間じゃない。想いの強さだからね」  聖夜の問いかけに、千代美は優しい声色で答える。その表情は、聖夜を気遣ってか穏やかなものだった。 「……そう、ですか……ね……」 「……そうだよ」 「……俺にとって、旭は……大事な存在だったんですね……」 「そう言ってくれるだけで、私もあの子も嬉しいよ」 「……はい。ありがとうっ……ございます……」 「礼を言うのはこっちの方だ。旭を大事に思ってくれて、ありがとね」
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