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気がつくと、聖夜は病院の廊下に立っていた。聖夜は、なぜ自分が病院にいるのか分からなかったが、不思議とそんなことは気にならなかった。
(ここは……)
聖夜は辺りを見渡す。
(知ってる場所だ。確かここは……)
昔の記憶を辿りながら、聖夜は廊下を歩く。能力症病棟と記されたフロアマップと、その傍にあるエレベーター。そして、大部屋になっている二部屋の病室。それらを通り過ぎた先にある個室の前で、聖夜は立ち止まった。
(ここだ)
聖夜が立ち止った病室の表札には、宵月しおりという名前が記されている。
(母さんの病室……)
聖夜が病室に入ると、そこにはあの日の光景が広がっていた。
「聖夜、柊……」
病気で寝たきりになっている母が、幼い頃の2人を見つめて口を開く。顔も体も痩せ細っていたが、その瞳には、強く優しい光が灯っていた。
「誰かのために、頑張れる人になりなさい」
「お母さん……ぐす」
幼い柊がすすり泣く声が聞こえる。その隣で、あの日の父が泣きながら母の手を握っていた。
(ああ、これ夢だ)
そう気がついたとたん、意識が遠のき始めた。
(あれ、そういえば俺……この時、どうしてたんだっけ)
聖夜はふと思ったが、まどろむ意識に飲み込まれていった。
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