40 最終決戦

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(真っ直ぐ来る……なら!) 「『加速』!」  聖夜は素早く右に移動し、大槍を躱した。大槍はものすごい勢いで床に突き刺さる。 「これを躱しただと……!?そんな馬鹿な!!」  ノエルは動揺を隠しきれず、声を荒げた。 (これ、旭の『未来予知』だ……!)  聖夜は蜂蜜色の右目を押さえた。すると、視えてきたのは次の攻撃のビジョン。無数の槍が、聖夜に降り注ぐ光景だった。 「まだだ……!食らえ!!」  ノエルが両手を上げ、無数の黒い槍を生み出す。槍は聖夜に降り注ぐが、槍の軌道を読めている聖夜は、素早く槍の間を縫って躱していった。 「何故だ!何故躱せる……!?」  取り乱すノエルを見て、聖夜は口を開いた。 「大事な仲間が……俺を支えてくれてるからだ!」 「仲間だと……?」 「ああ。俺は、沢山の仲間達に支えられてここにいる……だから、絶対に負けない!!」  聖夜はそう言い放つと、加速してノエルに向かって突っ込んでいった。 「ノエル!!」  聖夜はノエルの目の前に迫ると、彼の顔めがけて右ストレートを繰り出す。  ノエルはそれを受け止め、聖夜を睨んだ。 「聖夜……!」 「ノエル、前に言ってたよな?アビリティは未来を壊す道具だって」 「ああ、その通りさ……!アビリティは、人を傷つけ平和を奪う道具だ!」 「俺は違うと思う!違うって信じてる!!」  聖夜は拳に力を込め、ノエルに向かって訴えた。 「アビリティは……いや、アビリティだけじゃない。どんな力も、人を傷つけるためにあるんじゃない!!誰かを守るためにあるんだ!!」  ノエルの目が見開かれる。 「力があれば、ぶつかり合うこともあるかもしれない。でも、そのぶつかり合いだって……大切な人を守るためのことだろ!力は……人を傷つけ、支配するために使うものじゃない!大切な人を守るために使うものなんだ!ノエルにだって分かるだろ!?」  ノエルの脳裏に、戦争に向かう直前の大切な人の顔が蘇る。 『私、本当は戦争に行きたくない。これからも、ずっと……ノエルとママと一緒に、幸せに暮らしていきたい。でもね、幸せに暮らすためには……国を守らなきゃいけないの』  ツムギはそう言って、悲しそうに涙を流しながらノエルの顔を見つめた。 『だから……私、逃げたくないんだ。大切な人達の幸せのために』  ツムギは、大切な人を守るために、戦争へ行く決意をしていた。  大切な人を守るために、力を使おうとしていた。  しかし……彼女は、戦争で命を落としたのだ。  彼女を失ったことの喪失感が、ノエルの中で怒りに変わる。 「大切な人を守るためなら、戦争で血が流れてもいいっていうのか!?全部仕方ないって諦めて、未来が滅ぶのを指を咥えて見てろっていうのか!?僕はそんなの認めない!!」  ノエルは聖夜の横に『闇』で巨大な腕を生み出し、彼の体を殴らせた。 「ぐはっ……!」  聖夜は勢いよく殴り飛ばされ、少し離れた地面に倒れ込む。それを、ノエルは憎しみの籠もった目で見下ろした。 「力は他人を傷つけるためにある!それが僕の世界の常識だった!!どんなに平和を願っても、どんなに未来を願っても、世界には届かなかった……!」  ノエルは涙を瞳に溜めながら、怒りに顔を歪める。 「世界は……僕達を裏切ったんだ!!」  ノエルは床に手を当てた。すると、大量の黒い狼が生まれ、聖夜を取り囲んだ。 「こいつを倒せ!!息の根を止めろ!!」  ノエルの声を合図に、狼達が一斉に聖夜に襲いかかった。 「っ……!」  聖夜は辛うじて体を起こしたが、狼達の飛びついてくるのに対処が間に合わない。  万事休すか。そう思ったその時。 「『かまいたち』!!」  風の刃が、狼達を切り裂いた。 「なっ……!?」  聖夜が入口を見ると、そこには息を切らして駆けつけた中央支部の仲間がいた。 「聖夜!大丈夫か!?」 「翔太!みんな!」  翔太達は聖夜に駆け寄り、ノエルを睨んだ。 「……1人きりで僕達に敵うと思わない方がいいよ」  白雪はそう言ってノエルを鋭く睨む。
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