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* * *
商店街中央にある広場。イベント事がある時にはステージが設けられることもあるそこには、ベンチやテーブルが常設されている。先日、高次元生物の騒動があったものの、今日も広場は買い物客で賑わっていた。
2人はベンチに座って、熱々のコロッケを頬張った。余程お腹が空いていたのか、柊は黙々と牛肉コロッケを食べている。
(そういえば柊、料理苦手だもんな……)
聖夜はふと、昔、柊と2人で火事を起こしてしまったときのことを思い出した。あの日は確か、柊がオムライスを作ろうとして具材を全部焦がしてしまったのだった。しかも運悪く、コンロの近くの布巾に燃え移り、状況はどんどん悪化し、火事に発展してしまった。2人はアビリティ課の職員に助け出され、火事も無事鎮火したため、幸い怪我人は出なかったが、2人揃って大層説教されたのだ。以来、柊は料理に苦手意識があるようだった。
(料理できないから、あんまり食べてないんだろうな……)
聖夜は今度柊に目玉焼きから教えようと密かに決意し、コロッケを頬張った。
* * *
2人はパトロールを続け、町外れにある2人の家……瀬野家まで来た。
フラワーショップ瀬野と書かれた看板は年季が入り少し色褪せていたが、町で唯一の花屋ということで多くの人に愛されている。そんな実家も同然の花屋が、聖夜も柊も大好きだった。
「……夏実姉ちゃん達、元気かな?」
「入ってみる?」
柊の言葉に、聖夜は慌てて首を振った。
「何で?家に帰るみたいなものじゃない」
「あんなに覚悟を決めて出てきたからさ……。顔出しに行くの、何となく恥ずかしい……」
「えぇ~……?」
柊はよく分からないという目で聖夜を見る。
「……あれ?」
入り口のドアがガラガラと開く音を聞いて、2人は店先を注視した。すると、中から翔太が出てきたのだ。ピンクのカーネーションの花束を手にしており、これから誰かに会いに行くのか、珍しく私服のジャージ姿だった。
「聖夜!あれって……」
「翔太……?」
「誰かに会いに行くのかな……すごく気になる!追いかけよう!」
「え、パトロールは……?」
「パトロールしながら!」
柊の目が今日で一番輝いていた。
(多分柊の考えてるようなことじゃないだろうけど、一体誰に会いに行くんだろう……)
2人は物陰に隠れながら、こっそりと翔太の後を追った。
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