11 父の行方

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「もちろん、そのつもりだ。……しかし今はこれ以上の手掛かりが無い。いずれ、このことは大きな事件として君達の前に立ちはだかることになるだろう。その時のためにできることは、ただ1つ」  千秋は2人を真っ直ぐに見据えて言った。 「強くなることだ。君達2人はまだ伸びる」  千秋の言葉に、2人は頷いた。 「明日人さんのことは引き続きこちらで調査しておく。君達も精進してくれ」 「はい!」 「わかりました」 「話は以上だ。聞いてくれてありがとう。ゆっくり休んでくれ」  千秋の言葉に2人は頷き、部屋を後にした。2人が居なくなった部屋で、眞冬は溜息交じりに千秋に尋ねる。 「結局、2人を焚きつけただけじゃん。……こっちの話は言わなくて良かったのか?」  眞冬はファイルを千秋に見せた。何枚もの紙が挟まれて分厚くなったそれの表紙には、「高次元生物は人為的に生み出されている可能性について」と書かれている。 「ああ。……まだ核心をついていないからな」  千秋は、部屋にある大きな窓に歩み寄りながら、眞冬に答える。 「今は少しでも彼らに強くなって貰わなければならない。他者を守るだけではなく、彼ら自身を守るためにも。あの2人には、その中核を担えるだけの素質がある」 「……そうかよ」  眞冬は鞄にファイルをしまい、代わりにミルクココアの缶を取り出した。 「ほれ、どうせ休んでないんだろ。これで一息つけよ」  そう言って、眞冬は千秋に缶を投げ渡した。 「何で分かったんだ?『読んだ』のか……?」  千秋の反応に、眞冬は思わず苦笑いする。 「あのなぁ、俺が親しいやつにアビリティ使わないこと知ってるだろ。……見てられないっての。夏実もお前も、ずっとあいつに縛られてる。……お前が無理して倒れても、あいつは絶対喜ばないの、お前が一番分かってるだろ」 「……そう、かな」  右手薬指に嵌めた指輪を見て呟く千秋に対して、眞冬は溜息をついた。 「そうだよ。……俺もう行くけど、無理だけはすんなよ」  眞冬はそれだけ言い残して、総隊長室を出た。それを見送り、千秋は1人、窓の外を眺めた。町外れの公園に、桜が咲き始めている。 「……桜、か。もう君はいないのにな」  桜から目を逸らし、薬指の指輪に視線を移す千秋の瞳が、僅かに潤む。 「春花……」  指輪を見つめ、ある名前を口にする千秋のことを、棚に飾られた写真の中の、薄紅色の瞳をした少女が、微笑みながら見つめていた。
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