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1 時の力を持つ双子
「何だ、あのアビリティ……見たことない」
「あれが例の『時』の能力者か……」
2021年3月。天ヶ原町警察署アビリティ課、入隊試験会場の体育館がざわめいていた。人々の視線は戦闘試験が行われている体育館の中央に集中していた。
「よっと!『加速』!!」
「速くて当たらない……!」
瞳と同じ空色の光に包まれながら、黒髪の少年が、絶え間なく放たれる雷を素早く走ってかわしていたのだ。雷光が空気を裂くバリバリという音と、少年が床を蹴る軽やかな音が、体育館にこだまする。
「遅いぞ!」
攻撃に集中していた相手の隙をついて、少年が背後を取った。
「なっ……!」
相手が振り返るより、早く。少年は相手の背中を軽くパンチした。
「3本目!3対0で勝者、宵月聖夜!」
「よっしゃー!」
宵月聖夜と呼ばれた少年は元気に拳を突き上げた。
「聖夜、おつかれさま」
控え室に戻ろうとする聖夜に、タオルを持った少女が声をかけた。肩まで伸びた黒髪に、聖夜と同じ空色の瞳をしている。キリリとしたツリ目の聖夜と異なり、可愛らしい大きな瞳をしていたが、雰囲気自体は彼によく似ていた。
「はい、タオル」
「ありがとうな、柊!……柊はどうだった?」
「楽勝だよ。相手の動きを遅くしている間に3発みぞおちに……」
「容赦ないな!?」
「聖夜が優しすぎるんじゃない?聖夜の相手だって容赦なく『雷』を当てにきてたじゃない。相手の人も、悔しかったと思うよ?本気を出してない相手に負けたの」
「あー……そうかな。じゃあ、午後からは本気出す!」
「本気も何も、午後は面接じゃん」
「う……め、面接も頑張る!」
「はいはい」
2人が会話しながら歩いていると、曲がり角で小柄な少年がぶつかってきた。
「うわっ!?」
「あ、悪い……大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……次戦闘試験なんですけど会場が分からなくて」
「そこを曲がって右だよ」
聖夜は廊下の突き当たりを指さして言った。
「ありがとうございます!あ、僕、蓮見司って言うんです。よろしくお願いします!」
司が、くるんとしたアホ毛を揺らしながら勢いよくお辞儀をする。
「俺は宵月聖夜。ほら、早く会場に行った方が良いぞ」
「あ、はい!!ほんとに、ありがとうございました!」
司は礼を言いながらパタパタと廊下を走っていった。その、慌ただしくしながらも礼儀正しい様子を見て、柊は苦笑いする。
「変わった子だね。ライバルに対しても、あんなに丁寧なんてさ。今日、結構バチバチしてる人多いのに」
「そうだな……。でも、きっと良いやつだよ」
「そうかもしれないけど……。あ、待って」
柊は立ち止まり、柱に掛かっている時計を確認した。時刻は午後12時10分。丁度お昼時だ。
「もうお昼だし、控え室の荷物を取ったら食堂に行かない?午後も面接だし」
「あ、そうだな。そうしようか」
2人は早足で控え室に戻り、荷物を取って食堂へと向かった。
* * *
食堂は戦闘試験を勝ち抜いた者達で混み合っていた。
「ほんとに半分減ったんだよね……?」
「それだけ沢山受けてたってことだな」
警察アビリティ課は、義務教育を終えていれば訓練生として入隊が許可されることもあり、非常に倍率が高い。訓練生は警察内の学校に通いながら、任務に同行することになる。
職務内容は、アビリティ関連の事件の処理である。近年、アビリティによる凶悪犯罪が増えつつあり、アビリティ課の出番も大きく増えた。
「まあ、警察の花形部署だもんね。アビリティ関連の事件は大抵アビ課が処理してるみたいだし」
「あの!」
2人が声をかけられて振り返ると、司がお盆を持って立っていた。
「よろしければ、ご飯一緒にどうですか!!」
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