12 謎の少年

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 少年の言葉に、聖夜は戸惑いながら頷く。 「君は……?」  聖夜が問うと、少年は人差し指を聖夜の口に当てて言った。 「話は後。まずはこの状況を何とかしよう」  少年が祈るように手を握ると黒い雪が降り始めた。すると辺りが冬のような寒さになる。 「この寒さには耐えられないだろう」  少年は微笑んだまま言った。すると空気が揺れ、巨大なスズメバチのような生物が突如として姿を現したのだ。 「高次元生物……!あれが親玉か!」 「そのようだね」  少年は地面に手を触れた。すると地面から黒い狼が何頭も生み出された。 「君、アビリティは?」 「『加速』だけど……」 「丁度良い……僕のサポートに回ってよ」 「サポート……?」  首を傾げる聖夜に、少年はにこりと笑った。 「そう。僕の狼達に『加速』をかけてくれる?」  少年の提案に、聖夜は戸惑いの表情を浮かべる。 「俺、そういうのやったこと無いんだ。いつも自分の速度を上げて戦ってて……できるかどうか」  不安そうな聖夜に少年は優しく言った。 「できるさ」  少年の落ち着いた様子に、聖夜は不安な気持ちを押し殺して頷いた。 「やってみる……」  聖夜は狼たちに近寄り、少年がしたように地面に手を触れた。 「……『加速』!」  すると狼達が聖夜を振り返った。 (かかった……のか?)  少年は聖夜の肩に手を置いて笑いかけた。 「後は任せて」  少年は狼達に告げた。 「……骨一本残すな。食らいつくせ」  その横顔は先程とうってかわって冷酷だった。少年の声に呼応して、狼達が高次元生物にものすごい早さで飛びかかる。周囲の人々が呆然とする中、狼達は抵抗する高次元生物に食らいつき続けた。  ……しばらくして狼達が少年のもとに戻ってきた。その後には、本当に何も残らなかった。 「おつかれさま」  少年がそう言うと、狼達は溶けて無くなった。それと同時に黒い雪も止み、倒れていた人々が目を覚まし始めた。 「あなた!」  女性が目を覚ました夫に抱きつく。 「本当にありがとうございます……」  礼を言われた少年は、女性に対して微笑むと、聖夜に向けても目を細めた。 「すぐに片付けられた。君のおかげだ」 「そ、そんなこと……」  聖夜は慌てて首を横に振る。そんな聖夜に、少年は微笑んだまま言った。 「君は強い力を持っている。それこそ、今のように仲間を助ける力をね。君は自分の能力をもっと上手く使える。そうしたら、まだまだ強くなれるよ」  そう言う少年に、聖夜はハッとして聞いた。 「君、名前は?君も高次元生物と戦ってるの?」  少年は頷きもせず、首を横に振ることもなく、ただ穏やかな微笑みを浮かべたまま、聖夜の質問に答える。 「僕はノエル。君と同じように、僕にも果たさなきゃいけない使命があるとだけ言っておくよ。君の名前は?」 「俺、宵月聖夜!」 「宵月聖夜……覚えておくよ」  ノエルは微笑んで、ゆっくりと公園の出口へ歩き出した。 「またね、聖夜」  公園を立ち去るノエルの背中を、聖夜はぼんやりと眺めていた。
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