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「『遅延』!」
柊の声に合わせて高次元生物が空色の光に包まれた。その声で、柊が『遅延』を掛けたことを確認した海奈は、渦潮を解除する。すると、そこには無防備な高次元生物が立ち尽くしていた。
「深也!」
海奈の声と共に深也が高次元生物の背後に現れた。
「この距離なら……」
深也は高次元生物の背中にナイフを突き立てた。しかし、手ごたえがない。まるで、真綿にナイフを突き立てたような、そんな感覚だった。
「何だ、こいつ……」
「ミィィィ!」
戸惑いつつも、深也がナイフを抜くと、高次元生物は断末魔だけ残して砂のように消滅した。
「……やったのか?」
深也が呟くように言うと、海奈は笑顔で答えた。
「うん。深也、柊、やったな!」
海奈に快活な笑顔を向けられた深也は赤くなり、その場から立ち去ろうと走り出した。柊は、そんな彼を逃すまいと追いかける。
「深也君!」
柊は深也に追いつくなり、ニヤニヤしながら声を掛けた。
「深也君も分かりやすいね」
柊にそう言われて、深也は赤面しながら反論する。
「あ、あのね……きき、君はそういう話好きなのかもしれないけど、僕としてはそうもいかないんだよね!」
「ごめん……でも好きなんだよね?」
目を輝かせながら引き下がる様子が無い柊に、深也は溜息をついて言った。
「……うん。でもこれ内緒ね」
「どうして?」
「向こうが僕みたいな根暗のこと好きなわけないし、それに……何か避けてるでしょ、恋愛の話」
柊はそう言われて思い返す。確かに、先ほどのお茶会ではどこかぼんやりとしていた様子だった海奈。姉である花琳の好きな人の話をしている時も、曖昧な態度を取っていた。もしかしたら、恋愛の話をしたくない理由があるのかもしれない。そう思った柊は、深也に頷いた。
「分かった」
柊が頷いたのを確認し、深也は安堵の溜息をつきながら、本部へ戻ろうと歩みを進めた。
その時だった。
『3人とも!まだ相手は生きています!』
真崎の声で2人が振り返ると、そこには無数の黒い手によって地面に吸い込まれていく海奈の姿があった。
「海奈!!」
2人は慌てて駆け寄るが、海奈は地面に吸い込まれてしまった。
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