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(今のがさっき言ってた影に飲み込まれたってことか……)
柊が地面に触れると、ほかの場所とは異なり黒が濃く、中に入り込めるようになっていた。海奈を助けるためには、この中に入るしかない。覚悟を決めた柊は、深也を見て力強く声を掛けた。
「深也君、いこう!」
「で、でもこの中どうなってるか分からないし……僕も君も攻撃向きの能力じゃない……誰か待った方が……」
「もー!深也君の意気地無し!」
「ひっ……!?」
柊に強い言葉をぶつけられ、深也は体をすくめる。そんな深也の様子などお構いなしに、柊はまくし立てた。
「海奈が危ない目に遭ってるかもしれないんだよ!?誰かを待つなんて言ってられない!助けに行こう!大事な人なんでしょ?」
「っ……ああ、もう。分かったよ……!こうなったら、行くしかない……」
深也は半ば投げやりになりながらも、海奈を助けるために影の中へ飛び込んだ。
「……よし、行こう」
影の中に消えていく深也の背中に、柊も続いた。
* * *
深也と柊が飛び込んだ先は、どこまでも黒い世界だった。地面はぬかるんでおり、空と大地の境界線はなく、全てを真っ黒な墨で塗りつぶしたような空間が続いている。
「……重苦しい」
深也が呟き、それに柊は頷いた。
「早く海奈を探して、ここから出よう……」
2人が影の世界を歩き出した、その時。深也の背後から無数の手が伸びてきた。
「深也君!」
柊は手を伸ばそうとしたが、それよりも先に無数の腕に動きを封じられた。
「そんな……!」
「柊ちゃん!」
闇に吸い込まれていく中、深也はポーチからナイフを放り投げた。黒いぬかるみに突き刺さったナイフは、全てが黒いこの世界において唯一、銀色に輝いていた。
「……ここで待ち合わせよう」
それだけ言うと、深也は暗闇に呑まれていった。
(……駄目、だ)
柊の意識が黒く染まった。
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