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司も加わり、聖夜達は3人でテーブルに座った。聖夜と柊のお盆の上にはカレーライスが、司のお盆の上には生姜焼き定食が乗っている。
聖夜は口に運んだカレーライスを飲み込んで、司の顔を見た。優しそうなタレ目が印象的なその顔立ちは、アビリティ課のような戦闘が日常となる職業と結びつかない。
「司はなんでアビ課に志願したんだ?」
不思議に思った聖夜は、司に尋ねた。
「僕は、自分のアビリティが世の中のために役に立てば良いなと思って志願したんです。高校に進学するか迷ったけど、早く強くなりたくて……」
司は、少し遠慮がちに答える。それを聞いた柊が、会話の中に入ってきた。
「じゃあ私達と同い年だね。ところで、何のアビリティ?」
「『カウンター』です。……相手の攻撃エネルギーを自分の体に溜めて、倍返しするんです」
「へー!格好いいね。ね、聖夜?」
「うん!すごく強そうだな」
「えへへ……ありがとうございます」
司は照れ笑いした。頭のアホ毛も照れくさそうに揺れる。
「そういえば、2人はどういう関係で……」
緊張がほぐれてきた司は、2人に対してずっと疑問だったことを尋ねた。戸惑いながら聞く司に、聖夜と柊は可笑しそうに笑う。
「そういえば、私は自己紹介してなかったね。宵月柊です。聖夜の双子の妹だよ」
「あんまり顔つきが似てないから、よく勘違いされるよな」
「私は勘弁して欲しいんだけどね~」
「えぇ……そんなこと言うなよ。傷つく……」
「はいはい」
2人は双子で、おまけに仲が良いらしい。司は2人のやり取りに笑みを零し、更に尋ねた。
「2人はなんでアビリティ課に?」
「あ~……」
聖夜と柊は、気まずそうに顔を見合わせた。
「話せば長くなるんだけど、俺達、両親が居なくてさ」
「え!?」
「お父さんは行方不明で、お母さんは病気で……」
「そ、そんな……ごめんなさい。変なこと聞いて……」
「いや、気にするなよ。俺らが勝手に話してるだけだし」
申し訳なさそうな顔をする司を優しい笑顔で安心させつつ、聖夜は話を続けた。
「子どもの時に2人で料理しようとしたら火事を起こしちゃって、そこをアビ課の人に助け出されたんだ。その後、隣の家の人に引き取られて……それ以来アビ課に憧れててさ」
「亡くなったお母さんも、誰かのために頑張れる人になりなさいって言っていたから、アビ課に志願したの」
「そんなことが……」
「でも、それだけじゃないんだ」
「え?」
「こうして世の中のために働いて、有名になったらさ、父さんの耳に入るかもしれないだろ。そしたら、父さん安心してくれるだろうから」
「聖夜君……ぐすっ」
「え、司大丈夫か!?」
司は涙を拭って首を振った。
「大丈夫です……!二人の話を聞いてたら涙が出てきて……」
『面接試験まであと5分です。試験を受ける方は準備して下さい』
3人はアナウンスにはっとした。いつの間にか、そんな時間になっていたらしい。司は慌てて立ち上がると、2人に向かって勢いよく礼をした。
「聖夜君、柊さん、お昼一緒に食べてくれてありがとうございました!1人で上京してきて緊張してたけど、少し和らぎました!」
「同い年なんだから、そんなにかしこまらなくてもいいよ。な、柊?」
「うん。司君、一緒に頑張ろ!」
2人の様子に、司は少し照れながら拳を突き出した。
「……一緒に頑張ろうね。聖夜、柊」
「おお……」
「や……やっぱり変かな!?」
赤くなって慌てる司を見て、2人は笑った。
「うん。頑張ろうな、司」
「またね、司君」
「……うん!」
聖夜と柊は司とグータッチして、食堂を後にした。
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