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* * *
柊が目を覚ますと、そこは病室だった。大きなベッドの上で寝ている柊の腕には、点滴の針が刺さっている。すぐ横の棚には薬の入った紙袋が置いてあり、反対側の棚には黄色いガーベラが飾られた花瓶が置かれていた。
「何なの、これ……」
柊が起き上がると、病室のドアが開く音と共に、聖夜が入って来た。
「聖夜……!?」
「気分はどうだ?柊……」
聖夜は穏やかに声をかけてくる。しかし、その瞳はどこか虚ろだ。
「どうって……何がどうなってるか訳分からないよ。聖夜、ここは……?」
柊が尋ねるも、聖夜は返事をせずに窓辺に歩いて行った。
「今日は天気が良いな。窓を開けようか」
(聞こえてないの……!?)
念のため窓の外を見るが、一面黒くてよく分からなかった。柊が戸惑っていると、聖夜はベッドの脇にある椅子に腰を下ろした。その表情は普段通りの優しいものだ。それが尚のこと、柊の心をざわつかせる。
「ねえ聖夜、ふざけないで。ここが何なのか教えて」
自分の不安を紛らわせようと、柊は強い口調で聖夜に問いかけた。どうかこれが、悪い夢でありますように。そう、願って。すると聖夜は、唐突に柊の手を握って呟いた。
「……柊、俺1人だよ」
「え……?」
「何で俺を1人にしたの……」
そう言って涙をこぼす聖夜を見て、柊は何も言えなかった。
「聖夜……?」
「母さんは死んじゃったし、父さんは帰ってこない。俺には柊しか居ないのに……」
そう言って泣き続ける聖夜を、ただ見つめることしかできなかった。
「……俺、やっぱ駄目だよ。だからさ、柊……」
そう言うと聖夜はナイフを柊の首筋に当てていった。
「一緒に死のう」
「……!」
柊は咄嗟に聖夜の腕を払いのけた。ナイフが床に落ち、カランと音を立てる。
「違う……聖夜じゃない!」
柊がそう気がついたとたん、辺りが黒く染まり始めた。
「ヒトリニィ……シナイデェェ……」
聖夜だったものも溶け、先程戦った高次元生物になった。柊は、泣きながら蹲る高次元生物を見据える。
「……しないよ」
柊は、先ほど落ちたナイフを手に取って、聖夜だったそれに歩み寄っていく。
「私達、2人で生きて帰るって、夏実姉さんと約束したじゃん」
「ウグ……ヒック……」
「だから、私まだ死ねない」
柊は高次元生物にナイフを突き立てた。すると、確かな手応えと共に、高次元生物の悲鳴が響いた。サラサラと砂のように消えてゆく高次元生物を見届けて、柊はその場に座り込む。
「1人にしないで……か」
柊は少し溜息をつくと呟いた。
「……する訳ないでしょ、ばか」
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