14 影の魔人

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* * *  一方で、深也は気がつくと教室に1人立っていた。世間的には高校1年生である深也には小さすぎる机と椅子が、規則正しく並べられている。察するに、ここは小学校だろう。  時計を見ると午後4時半であることが分かった。  黒板には5月29日と書かれている。 (ああ。この日は……)  深也が廊下に出ると、明るい茶髪の少年が蹴り飛ばされていた。小学生の頃の深也だった。 「お前が俺の給食費盗ったんだろ!知ってるんだぞ、お前のアビリティが姿を消すことだってこと!」 「だから……僕じゃないって……」 「うるさい!」  更に蹴りを入れられ、小学生の深也は蹲った。 「頭が良くて運動ができるからって……偉そうなんだよお前!」  それだけ言うと、相手の小学生は立ち去っていく。周りにいた他の児童も、ある者はクスクスと笑い、ある者は軽蔑の眼差しを向けながら、何もせずに深也を見下ろしているだけだった。そう。誰も助けてくれなかったのだ。 (……この日から、いじめられ始めたんだ)  泣きながら蹲るあの日の自分を見下ろしながら、深也は唇を噛みしめた。 (結局、給食費は違う奴の鞄から見つかった。でも、誰からも謝られなかった上にいじめは酷くなる一方だった)  深也はその頃のことを思い出しながら、幼い自分から目を逸らす。 (良くも悪くも目立ったからこうなったんだ。半分以上の同級生は面白がっていただけ。いじめに加担しなかった奴も、誰も助けてくれなかった)  深也は辛い思い出を振り払うように首を振った。すると、今度は制服を着た学生とすれ違った。 (今度は中学校かよ……)  学生達に深也は見えていないらしく、皆おしゃべりをしたり、友だちとふざけ合いながら廊下を歩いていた。その中に、当時の深也の姿は無い。 (確か、この頃はいつも……)  深也は、過去の記憶を辿りながら図書室へ向かった。ガラガラと音を立てて扉を開けると、大きなテーブルの1番端に、中学生の深也は座っていた。 (いた……)  学生服を着た深也は1人教科書を開いて自習をしていた。長い前髪で顔はよく見えない。 (絶対に目立たないようにって必死だったな)  深也は自習を終えて図書館を出る自分を追った。そして、教室の前に差し掛かったときだった。 「A組の海透っているじゃん」  女子生徒の声が聞こえた。 「あいつまじ暗くね?」 「分かる~。何考えてるか分かんないし、キモいよな」  教室の中から、ケラケラと笑い声が漏れ聞こえてきた。
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