14 影の魔人

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 ドロドロとした大地は、いつしかサラサラとした砂に変わり、空も地面も雪のように白くなっていく。その真っ白な世界の真ん中に、海奈は立っていた。 「海奈!」  2人が駆け寄るも、海奈に反応はない。両腕を抱きながら、ただ、怯えた視線を目の前の人物に向けている。 「み、海奈……?」  海奈の視線の先には、1人の女性がいた。海奈と同じ紺色のロングヘアの女性は、彼女に向かって鬼の形相を向ける。 「どうして言うことを聞かないの!?」  女性は海奈の頬を叩いた。バチンという大きな音が辺りに響く。 「……母さん」  海奈は頬を押さえながら、怯えた顔で後ずさった。しかし、女性が1歩ずつ海奈に迫って、さらに怒鳴る。 「あなたは女の子なのよ?どうして黒いランドセルが欲しいなんて言うのよ!」 「……ごめんなさい」 「花琳お姉ちゃんは可愛いのに、どうしてあなたは可愛くなれないの!?」 「ごめんなさい。でも、俺……」 「俺なんて言葉使わないで!あなたは女の子なの!」  海奈の母親は、甲高い声で海奈を責め立てた。 「あなたのために言ってるのよ!!」  あなたのために言っている……その言葉を前にして、海奈はただ俯くことしかできなかった。もはや、反論する気力も、抵抗する勇気も、なかったのだ。 「……はい、母さん」  海奈は力無く返事をする。しかし、彼女の母親は海奈に拳を振り上げた。 「あなたみたいな出来損ない……居なくなれば良いのに!!」 「や、やめろ!」  深也は海奈を押しのける。彼女を庇う形で、深也は顔を強くぶたれた。 「うっ……」 「深也君!」  その場に倒れ込む深也に、柊は慌てて駆け寄った。 「深……也……?」  海奈はそう言うと初めて、瞳に深也を映した。 「……海奈、これは夢なんだ。海奈がそれに気づけば夢は終わる!」  深也は必死に海奈に訴えた。しかし、海奈は怯えきった表情で首を横に振る。虚ろになった瞳から、涙がとめどなくこぼれ落ちていた。 「で、でも……母さんが……怒ってる……」  海奈は声を震わせた。 「母さんが、お前は要らない子だって……出来損ないだって……」 「そうよ、あなたは要らない子」  女性は包丁を握りしめ海奈に振り下ろした。 「あなたなんか、大っ嫌いよ!!」 「……そんなこと、ない」  深也はふらつきながら海奈の母親の前に立ちはだかった。  包丁が、深也の腹部にグサリと突き刺さる。海奈の母親が包丁を抜くと、その場に赤い血溜まりができた。 「うぐ……!」 「深也……!」  海奈は、倒れ込んだ深也を抱きかかえた。 「深也、なんで……」  海奈の涙が、頬を伝って深也の顔に零れる。深也は、涙を流す海奈に対して、ただ静かに微笑んだ。 「海奈、僕……君が好きなんだ」
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