16 花琳の想い

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* * *  2人が花琳の部屋に着くと、聖夜はノックしようとして手を止めた。 「あれ、入らないの?」  柊が首を傾げると、聖夜は慌てて言った。 「男子に部屋入られたら嫌がるかな……」  たしかに、その可能性はあるかもしれない。柊は遠慮する兄の言葉に頷いてドアノブに手をかけた。 「じゃあ、聖夜はここに居て」  柊はドアをノックしながら、部屋の中に向かって呼びかける。 「花琳さん、海奈?」  柊が声をかけていると、ドアがガチャリと開いて、中から涙目の花琳が現れた。 「柊ちゃん……!」 「花琳さん!何かあったんですか?」 「海奈が倒れて……」 「と、とりあえず中入りますね」  柊が急いで部屋に入ると、海奈が仰向けで倒れていた。 「海奈!?」 「ひ、柊……来てくれたんだな……」 「何があったの!?」 「な……鍋の中を……」 「鍋?」  柊はキッチンに置かれていた鍋の蓋を開ける。すると、刺激臭が辺りに広がった。 「な、何これ……」  鍋の中にはどす黒い色をした液体が入っていた。全体的にドロドロとしており、お玉で掬うと、中に黒い固形物が入っていることが分かった。  この黒いのは何の具材なのか、そもそも食材なのか……柊には検討もつかない。ただ、何とも言えない表情で、柊は鍋を見つめることしかできなかった。 「スープを作ろうとして失敗しちゃって……それを食べた海奈が急に倒れて……」  花琳は声を潤ませながら、顔を両手で覆う。 「私どうしても料理だけはできないの……」  柊はその言葉を聞いてすぐ、花琳の両手を勢いよく握った。  料理が苦手な仲間を見つけて嬉しかったのだろうか。非常事態だというのに、柊の目はキラリと光っていた。 「私もです!!」 「柊ちゃん……!」  2人で手を握り合っていると、やはり心配になったのか、聖夜が部屋を覗き込んできた。 「な、なぁ大丈夫か……って、すごい匂いだな!?」 「あ、聖夜!良いところに!」  柊は、聖夜に走りよって、拳を握りしめながら元気に頼み込んだ。 「スープの作り方、教えて!」
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