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* * *
3人が廊下を歩いていると、向こう側から白雪が歩いて来るのを見つけた。
「あ、白雪さんだ!」
「え!?」
「姉さん頑張れ」
柊と海奈は花琳の背中を押して、曲がり角の陰に隠れた。
「え!?ち、ちょっと2人共、待って……!」
陰に隠れてしまった2人に助けを求める花琳だったが、2人は親指を立てて、にっこりと笑うのみだった。
「な、何が大丈夫なのよ~……!」
花琳がアワアワしていると、白雪がそれを見つけて不思議そうに声を掛ける。
「おや、花琳じゃないか」
「ふぇ!?」
「1人なんて珍しいね」
「そ、そそそうかしら?」
花琳は顔を真っ赤にして俯いた。隊服の上着の裾をギュッと握り、目を固く瞑る。
(ど、どど、どうしよう……なんて話せばいいの……?)
何も言わずに固まってしまう花琳に対して、白雪は心配そうに尋ねた。
「具合でも悪いのかい?」
「あ!ちち、違う!大丈夫よ!!」
花琳は慌てて首をぶんぶんと振る。それを見た白雪は、安堵の表情を浮かべた。
「そっか。良かった」
白雪はそう言って微笑むと、その場を立ち去ろうとする。
「あ!まっ、待って!」
花琳は咄嗟に、その腕を掴んだ。急に腕を掴まれて、白雪は驚いた顔で振り返る。
「花琳……?」
「い、言いたいことがあるの……!聞いて!」
花琳は、緊張で浅くなる呼吸を必死に整えながら、長年伝えたかった気持ちを打ち明けようと口を開いた。
「小学1年生の時に私達が会った日のこと、覚えてる?海奈が怪我して、落ち込んでた私のことを白雪君が励ましてくれたの……ずっとお礼を言いたかった」
少し早口になりつつも、無事に気持ちを伝え終えた花琳は、上目遣いで白雪を見つめた。しかし、白雪は目を逸らして冷たく告げる。
「知らないな」
「え……?」
「ごめん。人違いじゃないかな」
花琳はふらふらと後ずさった。
「あ、ご、ごめんなさい……」
居たたまれなくなった花琳は、慌ててその場を立ち去った。
「……あの頃の僕は、もう居ないんだ」
その後ろ姿を追うこともなく、白雪は1人呟いた。
* * *
(どうしよう、どうしよう……!)
花琳は泣きながら町の中を走った。
(ずっと前のことだもの、覚えてなくても仕方ないじゃない)
花琳は必死に自分に言い聞かせたが、それでも涙は止まらなかった。
(はぁ……私ってほんとにしょうがないわね……)
走り疲れ、花琳は中学校前の道路で立ち止まって溜息をつく。
「もしも~し、お姉さん?」
不意に、鼻にかかった明るい声に呼びかけられ、花琳は涙を拭いながら振り返った。
すると、そこには、大きなオレンジ色のツインテールの少女が不思議そうに首を傾げて立っていた。
「お姉さん、泣いてるの?」
少女は大きな瞳で真っ直ぐこちらを見つめながら尋ねる。その無邪気な瞳に見つめられ、花琳は慌てて首を横に振った。
「そ、そんなことないわよ」
努めて明るい笑顔を作る花琳に、少女は吹き出す。
「嘘が下手!お姉さんすっごく泣いた顔してるよ!」
少女はそう言うと、花琳の手をとり微笑んだ。
「エリスがお話聞いてあげる!」
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