16 花琳の想い

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* * *  天ヶ原町の海岸近くにある、高台の上の臨海公園。白いタイルの地面に、公園中心にある、髪の長い姫君の青いオブジェクトが映える。この公園は人々の憩いの場であり、いつも多くの人が集っていた。  しかし、高次元生物が発生した今となっては、普段の平和な様子の面影はない。誰もいなくなり閑散としている公園に、花琳は1人駆けつけた。 「居た……!」  花琳の目の前にいたのは、蜘蛛の形をした巨大高次元生物。それの頭には、無数の目に加えて、大きな牙がついていた。  臨海公園の先は、人々が暮らす郊外の住宅街。ここで高次元生物を食い止めなければ、そこに暮らす人々に危険が及ぶ。  退く訳にはいかない。花琳は覚悟を決め、高次元生物を睨みつけた。 「まずは動きを止める!『蔦』!」  花琳が右足を踏みしめると、地面から何本もの蔦が生まれた。 「絡んで……!」  蔦は高次元生物の手足に何重にも絡みつき、その動きを食い止める。高次元生物は蔦から逃れようと藻掻くが、藻掻けば、藻掻くほど蔦がきつく絡みつき、動きが取れなくなる。 (……よし。あとはどう始末するかだけ……)  花琳は腰から拳銃取り出して構える。  銃の扱いに慣れていない訳では無い。しかし、この一発で、こんなにも巨大な高次元生物を倒せるかという不安が緊張を呼び起こし、花琳のこめかみに嫌な汗が伝った。  町の人々の安全のためにも、今ここで、相手を倒さなければならない。そのためには、引き金を引くしかない……! 「これで……!」  花琳が覚悟を決め、高次元生物の頭に照準を合わせ、引き金を引こうとしたその瞬間。  何者かが花琳の肩を叩いた。 「銃を下ろして、お姉さん」 「……!」  鼻にかかった、今、場違いなほど、可愛らしく明るい声。  エリスだった。  エリスはにこにこしながら、高次元生物と花琳の間に、ゆったりと立ちはだかる。  彼女の登場に驚きを隠すことができず、花琳は思わず銃を下ろす。 「っ……!どういうつもり?」  花琳が問うと、エリスは楽しそうにくるりと1回ターンし、腕を腰の後ろで組みながら、花琳にいたずらっ子の笑顔を見せた。 「この蜘蛛、エリスのなんだ」 「え……?」 「お姉さんごめんね。お姉さんのこと気に入ってるけど……エリス、お姉さんのこと倒さなきゃ」  エリスはそう言うと、高次元生物に歩み寄り、優しく囁く。 「『あの子を殺しなさい』」  その声を聞いた途端、高次元生物が更なる巨大化を始めた。  手足に絡みついていた蔦が千切れ、高次元生物が一歩一歩近づいてくる。 「そんな……」  花琳は思わず後ずさる。その様子を見て、エリスは高笑いした。 「お姉さん1人じゃ倒せないよね!」  高次元生物は花琳に向かって勢いよく太い糸を吐いた。 「来ないで!」  花琳が腕を振ると無数の葉が糸に向かい飛んでいった。葉は糸を切り刻み続けたが、糸は勢いを止めなかった。  その太い糸に何重にも巻き付かれ、花琳は動きを封じ込められてしまった。 「く……」  身動きのとれない花琳に、蜘蛛の牙が迫る。 (だめだ……私ここで死ぬの……?)  花琳が恐ろしさのあまり目を閉じた、その時。 「『氷結』」  よく通る澄んだ声が辺りに響いた。
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