16 花琳の想い

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 ……刹那、巨大な蜘蛛が一瞬で凍りつき、エリスのすぐ脇に透き通った氷像が出来上がった。  花琳が恐る恐る目を開けると、見えたのは……白雪の背中。 「砕けろ」  白雪が指を鳴らすと、氷は蜘蛛ごと砕け散る。 「白雪君……」  白雪は花琳に微笑み、膝をついて彼女と目線を合わせた。 「遅くなってごめんね」  白雪は腰のポーチからナイフを取り出し、糸を切った。 「怪我はしてない?」  花琳は必死に首を横に振る。 「……そう。良かった」  白雪は柔らかい笑みを見せると、立ち上がってエリスに向き直った。 「君は誰かな?」 「私エリス。特部を潰せって頼まれてるの!」  明るい笑顔で答えるエリスに対して、白雪もまた微笑みを崩さずに告げる。 「その言葉が本当なら、君を本部に連行しなければならないね」 「あはは!そんなことさせないけど!」  エリスは笑いながら短刀を構えた。   「ひと思いに殺してあげる」  エリスがものすごい速さで突っ込んでくる。しかし、白雪は動じなかった。 「『氷柱』(つらら)」  白雪が指を鳴らすと、鋭い氷柱が天から降り注ぎ、次々とエリスに襲いかかった。しかし、エリスはそれを難なく躱していく。 「全っ然当たらないね!人間相手だから躊躇ってるの?それとも、限界が近いのかな」 「っ……、げほっ、げほっ……」  白雪の顔色は真っ青だった。手はかじかんで震え、意識がどんどんと朦朧としていく。  白雪が膝をついたとき、エリスが短刀を振り下ろした。 「白雪君!!」  花琳はエリスと白雪の間に割って入った。 「……っ!」  花琳の腕に短刀が突き刺さる。  エリスが短刀を抜くと、血がぼたぼたとこぼれ落ちた。  花琳が腕を押さえて座り込むを見てエリスは高笑いする。 「お姉さん、大して強くないのに無理しちゃって、ばかみたい!」 「花琳……」  白雪が苦しそうに呻いた。  その様子を見てエリスは目をキラリと光らせる。 「……あ、いいこと思いついちゃった」  エリスはそう言うと、花琳の首筋に短刀を当てて言った。 「ねぇ、お兄さん。エリス達の仲間になってよ。そうしたらお姉さんのこと助けてあげる」 「なんだって……」 「だめ!白雪君、私は大丈夫だから……」 「お姉さんは黙ってて」  白雪を止めようとする花琳の髪を、エリスは上から強く引っ張る。 「いっ……」 「ほら、早く決めてよ」  エリスは無邪気な笑顔で、しかし声色を低くして白雪に圧力をかける。  白雪は苦しそうに顔を歪めた。今まで、決して崩れることがなかった、あの柔和な微笑みが……崩壊したのだ。  その表情を見て、エリスは嬉しそうに笑みを零す。 「やっと心が乱れたね、お兄さん」  エリスは花琳から手を離し、白雪に近寄った。 「お兄さん変なの。ずっとにこにこしてたけど、心はとっても怒ってた」  エリスは甘い微笑みを浮かべながら、白雪の頭を撫でる。 「もう我慢しなくていいよ。エリスが楽にしてあげる」  エリスはそう言うと、白雪に囁いた。 「『誰も貴方に期待なんてしてないよ』」
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