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……刹那、巨大な蜘蛛が一瞬で凍りつき、エリスのすぐ脇に透き通った氷像が出来上がった。
花琳が恐る恐る目を開けると、見えたのは……白雪の背中。
「砕けろ」
白雪が指を鳴らすと、氷は蜘蛛ごと砕け散る。
「白雪君……」
白雪は花琳に微笑み、膝をついて彼女と目線を合わせた。
「遅くなってごめんね」
白雪は腰のポーチからナイフを取り出し、糸を切った。
「怪我はしてない?」
花琳は必死に首を横に振る。
「……そう。良かった」
白雪は柔らかい笑みを見せると、立ち上がってエリスに向き直った。
「君は誰かな?」
「私エリス。特部を潰せって頼まれてるの!」
明るい笑顔で答えるエリスに対して、白雪もまた微笑みを崩さずに告げる。
「その言葉が本当なら、君を本部に連行しなければならないね」
「あはは!そんなことさせないけど!」
エリスは笑いながら短刀を構えた。
「ひと思いに殺してあげる」
エリスがものすごい速さで突っ込んでくる。しかし、白雪は動じなかった。
「『氷柱』」
白雪が指を鳴らすと、鋭い氷柱が天から降り注ぎ、次々とエリスに襲いかかった。しかし、エリスはそれを難なく躱していく。
「全っ然当たらないね!人間相手だから躊躇ってるの?それとも、限界が近いのかな」
「っ……、げほっ、げほっ……」
白雪の顔色は真っ青だった。手はかじかんで震え、意識がどんどんと朦朧としていく。
白雪が膝をついたとき、エリスが短刀を振り下ろした。
「白雪君!!」
花琳はエリスと白雪の間に割って入った。
「……っ!」
花琳の腕に短刀が突き刺さる。
エリスが短刀を抜くと、血がぼたぼたとこぼれ落ちた。
花琳が腕を押さえて座り込むを見てエリスは高笑いする。
「お姉さん、大して強くないのに無理しちゃって、ばかみたい!」
「花琳……」
白雪が苦しそうに呻いた。
その様子を見てエリスは目をキラリと光らせる。
「……あ、いいこと思いついちゃった」
エリスはそう言うと、花琳の首筋に短刀を当てて言った。
「ねぇ、お兄さん。エリス達の仲間になってよ。そうしたらお姉さんのこと助けてあげる」
「なんだって……」
「だめ!白雪君、私は大丈夫だから……」
「お姉さんは黙ってて」
白雪を止めようとする花琳の髪を、エリスは上から強く引っ張る。
「いっ……」
「ほら、早く決めてよ」
エリスは無邪気な笑顔で、しかし声色を低くして白雪に圧力をかける。
白雪は苦しそうに顔を歪めた。今まで、決して崩れることがなかった、あの柔和な微笑みが……崩壊したのだ。
その表情を見て、エリスは嬉しそうに笑みを零す。
「やっと心が乱れたね、お兄さん」
エリスは花琳から手を離し、白雪に近寄った。
「お兄さん変なの。ずっとにこにこしてたけど、心はとっても怒ってた」
エリスは甘い微笑みを浮かべながら、白雪の頭を撫でる。
「もう我慢しなくていいよ。エリスが楽にしてあげる」
エリスはそう言うと、白雪に囁いた。
「『誰も貴方に期待なんてしてないよ』」
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