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聖夜が後ろを見ると、そこには千秋が立っていた。
「どうしてここに……」
「隊員を守るのが総隊長たる私の役目だろう。それに……白雪とは、決着をつけなければならないからな」
千秋は白雪を真っ直ぐ見据えた。
「勝負だ。白雪」
白雪は千秋に向かって、憎悪の眼差しを向ける。
「総隊長……僕は、貴方を許さない」
千秋はそんな白雪に向かって不敵に微笑んだ。
「どうした?いつもと違って余裕が無いな。……全然春花に似ていない」
「……っ!」
白雪は挑発する千秋を鋭く睨みつけ、氷の刃を放った。
鋭く光る透明な刃。氷で出来ているとはいえ、当たれば大怪我は免れないだろう。
しかし、千秋は一切の動揺を見せず、白雪を見据えていた。
「通用しない手を二度も使うな」
千秋が地面を踏みしめると、炎の壁が生まれた。赤い炎が、刃を全て溶かしていく。
「ちっ……」
白雪は氷で剣を生み出し、鬼の形相で千秋に斬りかかった。
「貴方のせいで姉さんが死んだんだ!」
激しい憎悪と、悲しみが混ざり合い、ぐちゃぐちゃになった白雪の表情。それを、千秋は切なそうに見つめる。彼は斬撃を躱すことなく、自らの右腕で剣を受け止めた。
剣に切られた右腕から、血が出てくる。しかし、千秋は顔色1つ変えなかった。
自分の傷などどうでもいい。自分の痛みなどどうでもいい。千秋は、自分の怪我には目もくれず、白雪の苦しさに歪んだ表情だけを見つめていた。
「どうして、姉さんを……守ってくれなかったんだっ……!!」
白雪は尚も、泣きながら剣を振りかざす。
「……白雪」
千秋は左手に炎を纏い、それを受け止めた。
剣は炎の熱で徐々に形を失い溶け落ちていく。そして白雪もまた、勢いのまま地面に泣き崩れた。
「どうして……姉さんは……」
凍りついた世界で泣きじゃくる白雪を、千秋はただ、抱き締める。
すると、白雪を覆っていた氷が淡い赤色の炎で溶けていった。
「……ごめん。白雪」
千秋がそう言うと、白雪はそのまま気を失った。
吹雪が止み、全員の足を覆っていた氷が溶ける。
千秋は白雪を抱きかかえ、全員に向けて辛そうに微笑んだ。
「……戻ろう」
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