67人が本棚に入れています
本棚に追加
18 和解
後日、白雪は総隊長室へ足を運んだ。
「失礼します」
白雪が部屋に入ると、千秋は窓辺に佇み、静かに町を眺めていた。
「……総隊長」
白雪に声をかけられ、千秋は振り返る。
「白雪か。どうかしたのか」
千秋が尋ねると、白雪は千秋を真っ直ぐ見つめて、
「……先日は申し訳ありませんでした」
深く、頭を下げた。
「あの時、意識はあったんだな」
千秋の問いかけに、白雪は静かに頷く。
「なら、あれは全て君の本心なんだな?」
「……はい」
白雪は目を伏せ、はっきりと謝罪の言葉を述べる。
「八つ当たりだって分かってます。……すみませんでした」
俯く白雪を見て、千秋は穏やかに微笑んだ。
その笑みは、総隊長が部下へ向けるものとは少し違う。まるで、兄が弟に向けるような……そんな、優しい笑顔だった。
「いや……あれでいいんだ。ずっと言いたかったんだろう、白雪」
千秋の言葉に白雪は苦笑いする。
「……そうかもしれません」
「君はもっと自分を出してもいいんだ。……泣き虫な部分をさらけ出しても、みんな助けてくれるだろう。特部に来る前の君は転んだだけで泣いていたからな……」
千秋が昔の話をした途端、白雪の眉が僅かに吊り上がった。白雪は普段よりも強い口調で、千秋に言い返す。
「その話は止めてください。総隊長だって、昔は気弱で目立たないタイプの人だったじゃありませんか」
「ほう、言うようになったじゃないか」
千秋は穏やかに笑った。それを見て、白雪もまた微笑む。ただし、今まで貼り付けていた柔和な微笑みではなく、どこか自信ありげな笑顔だった。
「……姉さんの真似はもうしませんから。我慢しないで笑いたい時に笑って、怒りたいときに怒ります」
「……そうか」
千秋は、微笑みを浮かべながら頷いた。真紅の瞳が、優しげに細くなる。
「昔から君を知る従兄としても、とても嬉しいよ」
千秋がそう言うと、白雪は明るく頷いて、にっこりと笑った。
「これからもよろしくお願いします。千秋兄さん」
白雪の口から出た、懐かしい呼び方。千秋はそれに頬を緩めながら、部屋を後にする従弟の後ろ姿を見つめた。
「……春花、見てるかな」
千秋は窓の外に視線を移し西公園を眺める。並木道だけではなく、大木の桜の花もすっかり散り終え、木々の深い緑色が映えていた。
「もう、春も終わりだね」
千秋はそう呟き、眉尻を下げながら微笑む。
するとその時、総隊長室のドアが開き、眞冬が入ってきた。
「千秋、ちょっといいか?」
眞冬の真剣な表情を見て、千秋は顔を引き締める。
「眞冬……何かあったのか」
「これを見て欲しい」
そう言って、眞冬は千秋に、紫色のファイルを手渡した。
千秋は中身に目を通し……言葉を失う。
「……これは」
「ああ。疑問が確信に変わった」
眞冬は頷き、厳しい表情を千秋に向けた。
「高次元生物は人為的に生み出されている」
最初のコメントを投稿しよう!