67人が本棚に入れています
本棚に追加
21 燕の記憶
総隊長室を解散した後、非番だった聖夜は、真っ直ぐ町立病院に向かっていた。
「誕生日プレゼントか……何が入ってるんだろう」
聖夜はプレゼントを空にかざす。ハッピーバースデーと書かれた小さな赤いシールの貼られたそれは、シンプルにラッピングされており、聖夜の片手に収まるサイズだ。
「そういえば柊に誕生日プレゼントなんて渡したことないな。同じ日が誕生日なのもあるけど……。翔太はほんとに妹思いだな」
そんなことを考えながら、聖夜は病院の自動ドアを通り、玄関ホールのエレベーターに乗る。
2階です。というアナウンスと共に、ドアが開く。聖夜は精神科病棟で降りて、燕のいる病室へ向かった。
病室の扉の前に辿り着いた聖夜はコンコンと数回ノックし、中へ声を掛ける。
「燕ちゃん、入るよ」
「はい」
燕の声が聞こえたのを確認し、聖夜はドアを開けて中へ入った。
「あ、聖夜さん。こんにちは」
燕は控えめに微笑みながら会釈をする。
出会ったばかりの時は、無表情でいることが多かった燕。そんな彼女も、最近はこうして笑顔を見せてくれるようになった。
少なくとも、聖夜の前ではそうだ。
「今日は1人ですか?」
「うん。燕ちゃん、手、出して」
聖夜は、いつも通り穏やかな声色で、燕にそう促した。
燕はそれを聞き、少し不思議そうな顔をしながら右手を出す。
「聖夜さん、手がどうかしたんですか……?」
「これ、翔太からの誕生日プレゼントだって」
聖夜は燕の手に、先程託されたプレゼントを乗せた。燕はそれを見て、嬉しそうに目を輝かせる。
「お兄さんから……!あの、開けてもいいですか?」
「もちろん!」
燕は、丁寧にラッピングを開封する。すると中から、羽をかたどったゴールドのネックレスが現れた。
「かわいい……」
燕は、思わず顔を綻ばせる。それを見た聖夜は、ふと思い立って、
「燕ちゃん、付けてあげよっか?」
と、穏やかに声を掛けた。
「えっ……!?」
燕の頬が、ほんのりと赤くなる。ネックレスを付けてもらえるのが嬉しかったのか、それとも照れくさかったのか……きっと、後者だろう。
「あっ、えっと……いいんですか?」
「もちろん!ネックレス貸して」
「は、はい」
燕はネックレスを聖夜に手渡し、彼に背を向ける。
聖夜は、燕の首にネックレスを掛け、留め具を止めようと手を動かす。
気になる相手の大きな手が、自分に触れられる距離にある。それだけのことで、燕の心臓の鼓動が早くなる。頬が、一気に熱くなる。
このうるさい胸の音がバレてしまわないか、この頬の熱が伝わってしまわないか、燕は気が気じゃなかった。
「よっし、できた!燕ちゃん、こっち向いていいよ」
しかし、聖夜は燕の乙女心には気づきもせず、明るい声で彼女を呼ぶ。
燕は、それに少し安堵しながら、深呼吸をして聖夜に振り返った。
「聖夜さん、似合いますか……?」
燕が尋ねると、聖夜はニカッと笑って頷いた。
「うん!バッチリ似合ってる」
「……ありがとうございます」
聖夜の言葉に、燕は、はにかみながら微笑んだ。
「ああ。翔太が帰ってきたら、翔太にも言ってあげてな」
「はい。もちろんです」
最初のコメントを投稿しよう!