21 燕の記憶

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 すると警察官が犯人に歩み寄り、闇の隙間から覗いていた手に手錠をかけた。それを見たノエルがアビリティを解除する。 「君達、ご協力ありがとう」 「いえ、俺は何も……」  聖夜は傍らのノエルを見たが、その表情は冷たいままだった。 (ノエル……一体どうしたんだろう……) 「とにかく、私は犯人を連行するから。君達も気をつけて」 「は、はい!」 「それじゃあね」  警察がその場を去り、聖夜とノエルはその場に取り残された。  聖夜は、冷酷な表情のまま遠くを見つめるノエルの顔を、心配そうに覗き込む。 「ノエル……その、大丈夫?」 「……ああ、平気さ」  ノエルは聖夜の方を見て微笑みを作った。しかし、目は全く笑っていない。  先程のノエルは、心の底が冷え込むような恐ろしい雰囲気だった。それこそ、人を殺すことすら厭わない意思を、敵ではなかった聖夜ですら感じたほどだ。  初めて会った時の、あの優しい微笑みからは想像できないほど……冷酷だった。  どちらが本当のノエルなのか。ノエルの目的は何なのか。  ノエルは……一体、何者なのか。  考えれば考えるほど、ノエルは謎に包まれている。  美しい向日葵色の金髪と、透き通った野葡萄色の瞳は、確かに綺麗だったが、その得体の知れない不気味さは拭えなかった。  それでも、聖夜は信じたかった。  あの日、初めて会った優しい少年が、本当のノエルだと。  聖夜はそこまで考えて、ふと、初対面の時に彼が落としていった髪飾りを思い出した。 「……あ!そうだ」  聖夜は上着のポケットに手を突っ込み、向日葵の髪飾りを取り出す。 「ノエル、この髪飾り落としてないか?」  聖夜がそれを差し出すと、ノエルの目が見開かれた。 「それは……!」  ノエルは慌てて髪飾りを手に取った。そして髪飾りが壊れていないかを入念に確かめ、胸をなで下ろした。 「君が拾ってくれたんだね。ありがとう……」  ノエルはさっきと打って変わって、心底安心したように微笑んだ。 「大事なものなんだ。もう見つからないかと思った」 「そっか……よかった」
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