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聖夜は、ノエルの空気が和らいだことに安心し、頬緩ませた。
そんな聖夜のことを、ノエルは真っ直ぐに見つめて、口を開く。
「……聖夜、君はアビリティをどう思う?」
ノエルの問いかけに、聖夜は首を傾げた。
「どうって……うーん……」
聖夜は、右手を顎に当てながら少し悩み、やがて口を開いた。
「便利なものだと思う。生活を豊かにしてくれているのもアビリティだし、戦う時に使うのもアビリティだ」
「じゃあ、君はアビリティは必要だと……そう思うんだね?」
ノエルの言葉に対して、聖夜は迷いなく頷く。
「……ああ。アビリティは誰かを守るために必要だと思う」
「そうか……」
ノエルは少し俯き、やがて吐き捨てるように言った。
「僕はそうは思わない。アビリティは……未来を壊す道具だ」
その様子を見て、聖夜は戸惑いの表情を浮かべる。
アビリティは、確かに犯罪の道具になることもある。しかしそれと同時に、一人一人に与えられた個性でもあるのだ。それに、生活を便利にするのも、高次元生物から誰かを守るのも、アビリティの持つ力だ。
それが、聖夜達の常識だった。
「ノエル……?」
「聖夜、君は優しい。だがらこそ、馬が合うと思ったんだけどな」
ノエルは寂しそうに微笑みながら、聖夜を見つめた。
「さよなら。聖夜」
ノエルはそう言い残すと、振り返ることなくその場を立ち去ってしまった。
「ノエル……」
聖夜は、ノエルの背中を見つめることしかできなかった。
ノエルの、アビリティに対する考えを、否定することもできずに。
ノエルの意見が自分と異なっていたからか、それとも、ノエルの寂しそうな笑顔が胸に突き刺さっているからか、嫌な胸騒ぎがした。
「アビリティは未来を壊す道具……そんなことないよな」
聖夜はそう自分に言い聞かせ、その悪い予感に蓋をしようとする。
その彼の傍で、か細い声が聞こえた。
「聖夜さん……」
「あ!燕ちゃん……!」
聖夜は慌ててうずくまる燕に駆け寄り、その背中をさする。
「大丈夫?」
「はい……えっと……」
燕はゆっくりと体を起こす。
その顔は、涙でびしょびしょに濡れていた。
それに気が付き、聖夜は目を見開く。
「な、泣いてる……!?どこか痛む?大丈夫?」
慌てる様子の聖夜に向かって、燕はすぐに首を横に振った。
「だ、大丈夫です!どこも痛くありません!……ただ、思い出したんです」
「思い出した……?」
「はい……」
燕は涙を拭いながら、口を開いた。
「私、過去の記憶を思い出したんです……」
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