21 燕の記憶

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 聖夜は、ノエルの空気が和らいだことに安心し、頬緩ませた。  そんな聖夜のことを、ノエルは真っ直ぐに見つめて、口を開く。 「……聖夜、君はアビリティをどう思う?」  ノエルの問いかけに、聖夜は首を傾げた。 「どうって……うーん……」  聖夜は、右手を顎に当てながら少し悩み、やがて口を開いた。 「便利なものだと思う。生活を豊かにしてくれているのもアビリティだし、戦う時に使うのもアビリティだ」 「じゃあ、君はアビリティは必要だと……そう思うんだね?」  ノエルの言葉に対して、聖夜は迷いなく頷く。 「……ああ。アビリティは誰かを守るために必要だと思う」 「そうか……」  ノエルは少し俯き、やがて吐き捨てるように言った。 「僕はそうは思わない。アビリティは……未来を壊す道具だ」  その様子を見て、聖夜は戸惑いの表情を浮かべる。  アビリティは、確かに犯罪の道具になることもある。しかしそれと同時に、一人一人に与えられた個性でもあるのだ。それに、生活を便利にするのも、高次元生物から誰かを守るのも、アビリティの持つ力だ。  それが、聖夜達の常識だった。 「ノエル……?」 「聖夜、君は優しい。だがらこそ、馬が合うと思ったんだけどな」  ノエルは寂しそうに微笑みながら、聖夜を見つめた。 「さよなら。聖夜」  ノエルはそう言い残すと、振り返ることなくその場を立ち去ってしまった。 「ノエル……」  聖夜は、ノエルの背中を見つめることしかできなかった。  ノエルの、アビリティに対する考えを、否定することもできずに。  ノエルの意見が自分と異なっていたからか、それとも、ノエルの寂しそうな笑顔が胸に突き刺さっているからか、嫌な胸騒ぎがした。 「アビリティは未来を壊す道具……そんなことないよな」  聖夜はそう自分に言い聞かせ、その悪い予感に蓋をしようとする。  その彼の傍で、か細い声が聞こえた。 「聖夜さん……」 「あ!燕ちゃん……!」  聖夜は慌ててうずくまる燕に駆け寄り、その背中をさする。 「大丈夫?」 「はい……えっと……」  燕はゆっくりと体を起こす。  その顔は、涙でびしょびしょに濡れていた。  それに気が付き、聖夜は目を見開く。 「な、泣いてる……!?どこか痛む?大丈夫?」  慌てる様子の聖夜に向かって、燕はすぐに首を横に振った。 「だ、大丈夫です!どこも痛くありません!……ただ、思い出したんです」 「思い出した……?」 「はい……」  燕は涙を拭いながら、口を開いた。 「私、過去の記憶を思い出したんです……」
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