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鈴はフルートを口元へ運び、力を振り絞って息を吹いた。弱々しい音塊が、アリーシャの手を弾く。
「翔太君を離せ……!」
悦びに水を差されたアリーシャは、氷のように冷たい眼差しで鈴を睨んだ。
「……早く死にたいようね。いいわ。その願い叶えてあげる」
アリーシャは鈴に歩み寄ると巨大な毒針を生み出した。
「死になさい!」
アリーシャが毒針を鈴に突き立てようとした、その時。
「『停止』……!」
柊の声が辺りに響き、アリーシャの動きが止まった。
「柊……どこにそんな力が……」
翔太な目だけを動かして、なんとか彼女を視界に入れる。
すると、柊はふらふらと起き上がり、翔太に笑顔を作った。しかし、その顔色は真っ青で、脂汗も浮いている。無理をしているのは明らかだった。
「できるできないの問題じゃないよ。みんなを守りたいから、私は何だってやってみせる」
その力強い言葉が、その大切な仲間を守ろうとする思いの強さが……翔太の胸に突き刺さり、熱を帯びた。
「柊……」
翔太の、柊に対する認識が変わっていく。
柊は、自分が守らなければならないようなか弱い妹ではない。
柊は、対等な仲間だ。強く、優しい、仲間だ。
でも……彼女が傷つくのは、無理をするのを見るのは…………嫌だった。
(俺も、柊を……守りたい。1人で傷つけさせるなんて、絶対に嫌だっ……!!)
翔太がそんな思いを巡らせている中、柊は目を閉じて、霞む意識を集中させていた。
柊は細く息を吐き、毒に侵されているとは思えないほど、力強く声を出す。
「『巻き戻し』……!」
すると、3人の体から毒が消え去った。鈴と翔太は身体が楽になったのに気が付いて直ぐに身体を起こす。それを見た柊は安心した笑顔を見せ……ふらりと倒れた。
「柊!!」
2人は慌てて柊の元へ駆け寄る。
「柊ちゃん……体の状態を毒が回る前に巻き戻したのか……!?」
「柊っ……!」
翔太は柊の体を抱き起こした。
「なんで……こんな無茶を……!」
「言ったでしょ。私、みんなを守りたかった……。そのためなら、なんだってするって……」
翔太の、柊を抱く腕に力がこもる。
自分を守る形で、柊が倒れたのが悔しかったのだ。
そして、倒れてしまった柊が、心配でたまらなかったのだ。
彼女が、大切であるが故に。
だが、立ち止まっていてはいけない。今、翔太にできることは、敵を退け、一刻も早く柊を安全な場所で休ませることだ。
翔太は不安を押し殺し、柊を抱えたまま立ち上がる。
「……ありがとう。後は俺達に任せて、休んでてくれ」
翔太は柊に真剣な面差しでそう伝え、彼女を壁際に横たえた。
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