67人が本棚に入れています
本棚に追加
「気にするな。それより、他にも患者がいる。静かにした方がいい」
「あ、ごめん……」
翔太に静かに諭され、柊は慌てて手で口を塞ぐ。
「……体の調子はどうだ?」
「うん……もう大丈夫みたい」
「そうか……よかった」
翔太はそう言うと、優しく微笑んだ。
少しつり目がちな目が、優しく細められている。長い睫毛も相まって、その表情は男子とは思えないほど綺麗だった。
(あ……翔太君って、こんな風に笑うんだ……)
柊が見とれていると、翔太は怪訝そうな顔をする。
「どうかしたか?」
「あ、ううん……何でもない」
柊は、自分が感じた気持ちにそっと蓋をし、首を横に振った。
それを見た翔太は、柊の気持ちの変化に気づかずに、彼女に質問を重ねる。
「ならいいんだが。……あ、そうだ。柊、約束覚えてるか?」
「約束……?」
「天体観測」
「ああ、うん。覚えてるよ」
柊が頷くと、翔太は少し目を逸らしながら、彼女に尋ねる。
「ち、丁度夜だし……今から見に行かないか?」
翔太の顔が、ほんのりと赤くなる。逸らされた目は、少し伏せ目がちで、睫毛の長さが際立って美しい。翔太の照れた表情も、柊にはとても綺麗なものに見えた。
(翔太君、やっぱり美人だな……)
柊が再び翔太に見とれて黙っていると、翔太は不安げに柊を見つめた。
「やっぱり、難しいか?体調が悪いなら、今日は無理しないで帰った方が……」
翔太に尋ねられ、柊は慌てて首を横に振った。
「あ、ううん!平気だよ。元気いっぱい!」
柊はベッドから降りて、翔太に明るく笑いかけた。
「天体観測、一緒に行こ!」
* * *
2人は街灯に照らされた道路を歩いた。住宅街はどの家も明かりがついており、窓の開いた家からは時折談笑する声が漏れ聞こえてきた。
「こっちだ」
翔太は迷わずに柊の前を進んだ。柊もその後に続く。
最初のコメントを投稿しよう!