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佐伯くんは私の両腕を引っ張り上げると、そっと私の頭を自分の胸に引き寄せた。
「俺がでこぴんで泣かせた。だから俺の胸を貸してやる。思う存分泣け」
私の一粒の涙をもっと溢れさせようとする彼から離れようとすると、彼は私の背中と頭を抱え込み頭の上で言った。
「俺様の胸を貸してやると言ってるんだ、泣けよ」
偉そうな口調と、優しい声と手のひらのギャップに涙腺が緩む。まずい…これは良くないシチュエーションだ。彼は私のことが好きで私には拓也がいて…
「まだ踏ん張るのかよ」
「…もう痛くない」
「嘘つけ」
「ついてない」
「お前…でこ以外にも痛いんだろうが」
「…」
拓也、ごめん…今だけ…ちょっとここで泣かせてもらうよ…
静かに涙が溢れるとともに強張っていた体の力が抜けていくようだ。佐伯くんの胸に顔を埋め体重を預けるようにして、ずっと止まらない涙に自分でも呆れる。
「…なんで誕生日知ってるの?」
「くくっ、ひでぇ声。つぐみのことはリサーチ済み」
「こわぃ…ね…それで今日飛んで帰ったって思ったの?」
「先月には来月つぐみの誕生日だなって思ってたし、今月に入ったらあと何日でつぐみの誕生日だなって毎日思ってた」
なんてことだ…拓也に忘れられていた日を、佐伯くんがそんな風に覚えてくれていたなんて…
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