つぐみ、とける

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つぐみ、とける

眠さを感じているのか肉体的な疲労を感じているのかはっきりとはわからないが、ぼんやりとした頭と体で仕事を始めた。しかしどちらも不快なものではなく‘幸せな’という形容詞がつきそうな疲労感で、始業から1時間も経つと頭もクリアになってくる。 昼休みにみたスマホに、今日はショールームにいる稜牙からメッセージが入っていた。 ‘仕事のあとすぐ帰れ。買い物も料理もするな。絶対に何もするな’ 今までの私なら‘夕飯どうするの?’と気になったり心配になったけど、不思議と稜牙にはそう思わない。彼に何かしら考えがあるのだろうと素直にメッセージを受け入れる。 ‘わかった、何もしない’ それだけ返信すると午後の業務前にトイレへと行った。個室に入ってすぐ誰かが入って来た気配がするが扉の音はせず化粧直しをしながらお喋りしているようだ。 「今日ショールーム担当でラッキーだったよね」 「口には出さないけど、私たち以外もみんな思ってるでしょ」 「ヘルプに国際営業の人が入ることも少ないのに、今日は佐伯さんだもんね」 「眼福って言ってる子もいたくらい」 「間違いないよねぇ…よしっ午後も頑張ろっと」 「お茶出しだけどねぇ。金曜だし誘っちゃう?」 「佐伯さん?」 「もちろん皆さんって含ませるけどねぇ、あははっ」 「OK、うまく加勢しまーす」 なるほど…聞いてはいたが人気あるんだよね、稜牙。ショールームはこの本社に併設されており国内の販売店やユーザー様が訪問される。今日はまとまった人数での予約があったが国内の担当者以外でヘルプに入れる人がいなかったらしい。そういう場合のヘルプは工場から人が来たり、国際営業の者がする。担当者は訪問者へ機械の説明や営業活動をし、ヘルプの者が機械のデモをするのだ。 夕飯食べてくるかもね…そう思いながら手を洗い急いで国際営業部に戻った。
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