自己犠牲の救われた日

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自己犠牲の救われた日

…これが。 …これが災害。 家族を失い、生きる意味を失う。 思い出が形を失い、日常の一コマすらない。 『なんで、こんなことに…? 僕たちは何も…悪い事をしてないのに…。』 そこで、僕の意識はブラックアウトした。 …。 ……。なんで、こんなに静かなんだ? 音だけならまだしも、周りの景色が異常に静かだ。 建物が崩壊して、そこら中に瓦礫が散らばっている。 それが現実なのか夢なのか。実際にそうなのか比喩的なのか。それが僕には分からなかった。 いや、本当は分かってる。ただ理解するのを頭が拒んだ。 嗚呼、本当に…こんなにも残酷に。 災害は……街ごと飲み込んで、思い出すらも壊してしまうんだ。 『あぁ……これが……』 これが災害なんだな…。 「ねぇ、キミ。涙を流してどうしたの?」 『え…?』 誰だ? …誰なんだ?この少女は。 紫色の髪に…小さい… 「君…今身長が小さいとか思わなかった? これでも高校生なんだよ~?」 『いや、まず、お前は誰なんだ?』 「ボクかい? ボクは……君の幼馴染だよ。 忘れちゃったのかい?」 『おさ…ななじみ?』 「そうさ。 保育園からの仲じゃないか。 まぁ、中学からは、学校が分かれちゃったけど。」 保育園から? いや、僕の記憶上、小さい身長に紫の髪は居ないんだが…。 念の為、保育園から、高校3年までの記憶を漁ったんだが……。 「むぅ~~~」 この小動物みたいな顔は見覚えがあるんだけどなぁ~~~。 けどあいつは髪の毛黒だったし。 けど、もう6年会ってないし…変わるもんかなぁ……? うぅ~~~ん…試してみるか……。 『……あのさぁ…一つだけ良いか?』 「なんだい?」 『……赤点を』 「!……みんなで取れば平均点」 『お前、木綿季か!?』 「そうだよ! やっと思い出したのかい?」 『あぁ…思い出したよ。』 そう。 〔赤点をみんなで取れば平均点〕 は、テストで良い点を取れなかった僕らを勇気づけてくれた、大切な合言葉。 「思い出したんだね。 だ・け・ど、大切な幼馴染を忘れた罪は重たいよ~」 手をワキワキさせながら言うんじゃない。 『…はぁ……で? その大切な幼馴染の木綿季様は何をお求めに?』 「そうだね~…じゃあ先ずは、その流してる涙を止めてもらおうかな~」 『え?…涙……を……?』 手を瞼に当ててみると確かに涙が流れてた。 『なん…で…』 その瞬間、体に僅かに重圧があった。 まぁ、木綿季が抱きついて来たのだが……。 「少し合わないうちに大きくなったね~ ってうわぁっ」 『んな?』 本震よりも少し弱い。それでも十分に強い揺れの余震が僕らを襲ってきた。 もちろんバランスを取れるわけもなく後ろに倒れ訳だが……。 まぁ、そうなるよな…。 抱きついていた木綿季は僕に覆いかぶさるようになって……。 『いてて……。』 「いや~助かったよ~ 君が下になってくれて怪我をせずに済んだよ~」 !! えぇ~っと…。 顔が可愛い。 じゃなくって! 顔が近い! 『あの~…木綿季さん?1回降りてくれm』 「何か言いましたか?」 凄い良い笑顔だ。 なのに…笑顔なのに…凄く怖いのはなぜだろう。 『ご…誤解だ~!!!』 「何が誤解なんだい?」 『えぇ~~っと…あぁ~~っと』 「ふはははは」 『何笑ってんだよ。』 「いや~君、顔は真っ赤だよ~?」 こいつ…人の羞恥を笑いやがって……。 だけど、だからこそこいつと仲良くなれたのかもな。 「さてと、そろそろ降りようかな。」 そうして、僕らは立ち上がって。 『木綿季…?』 「………」 木綿季は、笑顔をそれも、優しく、温かみのある笑顔を向けてきて…。 そして、 温かい重圧があった。 『え?』 「日向君。」 『!!』 「今まで頑張ってくれてありがとう。 今まで努力をしてくれてありがとう。 今まで無理をしてくれてありがとう! 今までつらかったね。 今まで寂しかったね。 君は無理をし過ぎたんだ。 だから…さ。 もう頑張らなくても良いんだよ。 もう無理をしなくても良いんだよ。 だからさ、もっと誰かを頼っていいんだよ。 もっと……ボクを頼っていいんだよ。 ………。 もっとボクを…頼ってよ。 もう、自分を犠牲にしないでよ。 もっと、自分を大事にしなよ。 自分"だけ"を犠牲にしないでよ。」 『…ッ…ク…うぅ…』 「もう、涙で流しちゃいなよ。 全部さ。今までの悲しみを 今までの苦労をさ。 ボクが全てを受け止めてあげるからさ。」 その言葉の通り木綿季は、全てを受け止めてくれた。 ここはファンタジーアニメとかじゃないからこれで僕の心が全てを楽になるとか、悲しみや苦しみが全て無くなることはないし、家族が生き返ることもない。 それでも…少しだけ、心が楽になった気がした。 今だけは、悲しみを忘れることができた。 今だけは、苦しみから逃れることができた。 こんな自分でも誰かを頼っても良いんだって。 こんな自分でも…木綿季を頼っても良いんだって。 これが【自己犠牲が救われた日】の物語。 ……このあと、涙が枯れる頃には木綿季の服を涙で濡らして…我に帰った僕が、顔を真っ赤にし、木綿季にからかわれる。と言うのは、また別のお話。
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