ファインダー越しの彼女

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「そうだっけ......」  優弥は何か言葉を言おうにも、それ以上何も言えなかった。  最初こそメールは来なかったが、今は少なくとも1日に1回、多くて何十回とやりとりをする。電話や会うことばかりだったら、気づかないこともあった。  それを知るのが楽しくて、茜とメールのやりとりが楽しくて、今日まで連絡を取ってきた。  同時に、いつの間にか期限のことなんて忘れていた。  どうしたら、茜ともっとやりとりできるか。そればかりを考えてきた。  しかしそれは期間限定のことだということを、茜から言われるまで忘れていた。 「はい。なので、勝負の結果を決めたいです」  凛としたまっすぐな茜の言葉に、優弥はこれ以上話を引き伸ばせないと思い、茜の言葉を待つ。 「優弥さんはどうですか?」 「俺は、もっと茜のこと知りたくなった。パイロットの茜じゃなくて、もっと普通の茜のことを知りたい」 「普通の私、ですか」 「そう。普通の茜を知りたい」 「自衛官の私も私です」  間違えた。    そう思った瞬間から、優弥は茜に何も言えなくなった。  茜が言ったことに間違いはない。  優弥の選んだ言葉が間違っていただけだ。 「私の職業は自衛官ですが、普通の人間です」  何て言ったら良いかわからない。適当な言葉で返してはいけないことだけは直感的に悟った。 「それに」  茜は何か言いにくそうに一度口を開いてから、また閉じる。自分の感情をココアと一緒に飲み込んでから、再び優弥に言葉を投げた。
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