ファインダー越しの彼女

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 茜を初めて見たのは、自衛隊が協力して出版している専門誌だった。 『女性初のブルーインパルス隊員、誕生』  その言葉に引かれて、優弥は本屋で雑誌を手に取った。  元々飛行機が好きで、中でもブルーインパルスやF-15といった戦闘機を見たくて、高校時代に航空祭に行った。その日から、どっぷりと戦闘機ヲタクになり、休みと資金があれば、あちこちの航空祭に足を運んだ。  しかし、あくまでも写真を撮るだけで、航空自衛隊に入隊しようとは考えたことがなかった。  彼ら、彼女らの働きを見ると、自分はそこまでできる気がしなかった。せめて、応援するくらいしかない。  撮った写真はブログにあげたりして、航空ファンと細々と楽しんでいた。  高校卒業後は、美容師専門学校に進んだ。姉が三人いる優弥は、姉たちの美容にかける熱を間近で見ているうちに美容師の仕事に興味を持った。  学校の授業も、国家試験も大変だったし、仕事に慣れるまでも大変だったが、ハサミを持つことが許された日は優弥にとって一生忘れられない日になっていた。  だが、それが以上に鮮烈だったのは、ブルーインパルスに女性隊員がいたことだった。  戦闘機に女性が登用されたのは、優弥が高校生の時の話だ。そこから月日は経ち、ようやくブルーインパルスに女性隊員が登用された。 「すげぇなぁ」  専門誌を手に取り、ページをいくつかめくると、特集記事として女性隊員のインタビュー記事が載っていた。  フライトスーツを着て、ブルーインパルスの横に立つ彼女の笑顔に優弥は釘付けになる。  ブルーインパルスの隊員になったとしても、すぐにアクロバットをするわけではない。1年間かけて、じっくりと先輩隊員の技術を学んでいく。 『皆さんに空を守っている私たちをもっと知ってほしいです』  インタビューの最後の言葉は、そう締め括られていた。  そして、彼女の名前は『神宮寺茜』で、TACネームが『ローズ』だとそこに記載されていた。  優弥はそのまま専門誌をレジに持って行ったのは言うまでもない。
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