七 任務

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 二四〇〇時過ぎ。  海中を進むウェーブグライダーの先頭で、吉永が後方の三人に手話で支持する。 「浮上し、顔だけ出して結果を確認する」 「了解」    二四〇五時。  シュウザン海軍基地の方角で、四度、閃光が夜空に走り、続いて大きな閃光が夜空を覆った。  五分あまりり後に、低周波の大音響が波しぶきをかき立てて海上を通過していった。吉永たちは海中から海上の変化を確認した。 「まだ、任務は完了していない。急いで帰還する」  吉永は部下とともに、海中を移動した。  翌日、二〇三二年、十月九日、土曜、一〇〇〇時過ぎ。  吉永たちが、尖閣諸島に停泊している第六艦隊の輸送揚陸艦に戻った。 「見てください。上々のできです」  輸送揚陸艦のキャビンで、小関久夫CDB局長が映っているディスプレイの画像が、情報収集衛星が捕捉した画像に変った。シュウザン海軍基地の惨劇がディスプレイに現れている。四隻の原潜のミサイルサイトが爆発して、それら爆発が駆逐艦や巡洋艦のミサイルを誘爆し、ミサイル攻撃されたかの如く、シュウザン海軍基地とその一帯が壊滅した。 「中国の声明は?」  吉永は小関久夫CDB局長にそう質問した。ここまで大々的に爆発が起れば、中国の出方は二通りになる。  一つは海軍基地内の兵器管理ミスから生じた大惨事として、責任を中国人民軍に取らせて幹部を粛正する。  もう一つは、対立する環太平洋環インド洋連合国(Pacific Rim Indian Ocean Rim United Nations・PRIORUN)による破壊工作として、国際世論に訴える。  姑息な中国のことだ。証拠がなくても敵対国の破壊工作として国際世論に訴えるだろう・・・。 「今のところ何もありません。我々が調査した情報によれば、中国が実用化しているミサイルには、熱感知センサーに問題があったのは確かです。  したがって、基地内でミサイルが爆発すれば、その熱で他のミサイルも爆発した。中国の調査当局はその事を確認しています。中国は自国のミスを公表しないでしょう・・・。  諸君はただちにこちらに戻ってください」  小関久夫CDB局長はそう言って、執務机のディスプレイの専用通信回線を閉じた。
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