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九 なぞの女
「こいつが何者か、調べろ」
吉永が女を東屋のベンチに寝かせると、班長の前田が班員の山本と倉科にそう指示した。
山本は通信装置の生体センサーで女の指紋と顔、遺伝子情報をCDBに照合し、倉科は女の装備を調べている。
女の装備を確認して倉科が言う。
「こいつ、暗視カメラと素粒子信号通信機を持ってる。国産じゃないぞ。
我々を盗撮して映像を送るつもりだったんだ。銃もナイフも中国の物だ」
「映像の送り先は中国だ。これを見てくれ」
山本がCDBに照合した女の生体情報結果を通信機で示した。
女の生体情報は環太平洋環インド洋連合国の兵士や特務コマンドの登録には無かったが、過去に、国内イージスアショア破壊工作未遂事件の際に得られた情報の中に、女の生体情報があった。
「イージスアショア破壊工作に、この女の生体情報が現場に残っていたのも妙な話だ。
我々は破壊工作の現場に、我々に関する情報は残さない。この女も、同じようにするはずだ。この女がイージスアショアの破壊工作に関与したと考えるのは短絡的だ・・・」
吉永は何かが妙だと思った。
「しかし、装備は中国の物です」と倉科。
「中国が素粒子信号通信機を開発した噂があるだけで、実物は誰も見ていない。風がわりな通信機だというだけでは確証にはないだろう。
まあ、自白剤を圧入すれば、事実がわかる。
そろそろ麻酔が切れる」
吉永はそう言って、女の首に左手の小指を触れた。
僅かな振動音がして、吉永の小指の先から女の頸動脈に自白剤が圧入された。
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