九 なぞの女 

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 女の意識が戻った。自白剤が効いて身体の自由が利かないが。くたっとして骨抜き状態だ。  BBQの炉で燃える薪がはぜ、肉の焼ける匂いが漂っている。女の腹部から空腹を訴える音が響いた。前田は焼けた肉と野菜を皿に載せて、テーブルに置いた。  テーブルの前の椅子に、自白剤で骨抜き状態なった女が座っている。 「腹が減ったか。質問に答えたら、食わしてやる。  名前と所属を言え」  吉永の質問に、女がゆっくり答える。答えないように抵抗はしていない。それがこの自白剤の優れた点だ。 「鮫島京香。中国名はチャンリンレイだ。所属はない」 「あの灌木の中で、何をしていた?」 「小便だ」 「なんだって?そのために、あそこに居たのか?」 「お前たちを観察してたら、小便をしたくなって、した。  バトルスーツの排泄機能は消臭機能が不完全だから小便の臭いが残る。臭いで何処に居ても気づかれる。  お前たちサイボーグの特務コマンド(Cyborg special command・CSC)に匂いを気づかれるのを避けるためだ」  鮫島は吉永たちを、サイボーグの特務コマンド・CSCと言った。 「我々を観察した目的は何だ」 「信頼できるか否か、確認してた」 「なぜ、中国の工作員が我々を信頼する?」 「私は中国の工作員ではない」 「その装備は中国の物だ。どうして中国の装備を着けている」 「私は中国の特機甲から逃げてきた。  私は十五の時、北朝に拉致されて、中国の特機甲に入れられ、環太平洋環インド洋連合国(Pacific Rim Indian Ocean Rim United Nations・PRIORUN)の破壊工作訓練を受けた。  だが、同じように拉致されて特機甲に入れられた仲間たちとともに特機甲から逃れ、助けを求めてここに来た・・・」  鮫島は拉致された後、洗脳訓練を受けた中国の特殊部隊、中国人民軍特別機甲部隊、通称、特機甲(人民軍特別機甲部隊(People's Army Special Mecha Unit・PASMU))での経緯を語った。  吉永が尋問している間、前田は、鮫島の説明が事実か、小関久夫CDB局長へ連絡した。
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