夜道を照らして

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夜道を照らして

パキッ……メキッ 遠くの方で夜鳥の鳴き声がする 僅かに動物たちの葉を踏みしめる音や枝を踏み折る音 が響く森の夜道を、馬を引いて歩んでいる 「今夜はよく晴れてたから、月がよく出ているね」 それを聞いた馬は小さな鳴き声で応するように鳴き、尾を揺らした 柔く凪いでいる風に外套から出ている長い髪が揺れる それを耳に掛けながら月を見上げた 「ふむ。少ししたら休もうか、あとちょっとで山小屋だ。がんばってくれ」 そう言って旅のお供の馬を優しく撫でる 旅をしながら街や国、村を気ままに立ち寄り自分が作った煎じ薬やお守り、魔法具や道中で得た本や場所により価値が変わる品などをやりくりして商売しながら旅をしている もう旅に出て数年、捨て子だった自分を拾い育ててくれた魔術師の老人の元で様々な事を学び、そして異端児であった自分を大切に育ててくれた恩人が亡くなり村にいる必要もなく、なら以前教えてくれた魔法使いの旅のお話のように自分も己の目で世界を見てみたいと思い、身の回りのものを整理して旅に出た。老人が残してくれた銀の細杖と藍色の外套を持って相棒の馬と共に各地を旅をしていた 「小屋に着いたら荷物の整理と品物の選別だな。お前もゆっくり休んでくれ。獣除けの呪いはしといたからよく寝れるだろう。私は早く茶が飲みたいよ」 昼間は暑く休み休み進んだせいで遅れたがここは森の中だが、涼しくて道がある程度整備されており早く進めたのだ 先日寄った街で見つけた珍しい茶葉を見つけたので楽しみだ。茶に香りの良い白花を混ぜたお茶。それは夜間に摘みそれを茶とあえて香り付けした品の良い地域限定的なお茶なのだ。それに合わせた酸味のある果物を甘く煮詰めたものを練り込んだパンと焼き菓子もある。実に贅沢だ 今日の日付を跨ぐ前に着けるだろう。そこから一日休み七日をかけて王都ゼンクォルツへと着く そこで旅に必要な品と商売をし、その地域を見て調べてみるのだ。 この険しくも楽しく充実した日々の旅が、気楽にできて自分に合っていると思うから続けてこれたのだろう 腰に下げた小袋から小さく綺麗な赤い、水分と僅かな酸味と甘味があるススナの身を一つ取り出して口に含む 昼間道中でたくさん実っており、拝借したのだ よく熟しているようでとても美味しい。人によっては酸味が苦手で忌避するものもいるが加工品もあって職人には需要がある 「国まで行くにはあと一つ二つと山を越えなくてはならない。はぁ憂鬱だ。相棒よ、頼んだぞ」 相棒の馬は耳をピクッと動かしたがそれ以上の反応はなかった 「ははっ、お前は正直者だな。いつも引っ張ってくれているから助かっている。お礼に国に着いたらキャロの実を進呈しよう」 孤独な旅ではない。ここまでも助け合ってこれたのだから 一時間近く歩き、山小屋まで半刻もせず着くだろう だが川があり馬もだいぶ喉が渇いたろうし、飲水を確保するのも大事だ。そこで軽く休憩しよう 川が月明かりに照らされ煌めいていた 馬をそばに寄せ川の水を飲ませる そして自分も馬に掛けていた荷袋の中から水袋を取り出し川水を汲む 水温は低く冷たさがしみた 日がでていた時は暑かったので水浴びをして布で身を清めたかった 「水は多めに汲んでおこうか。重くなるが許してくれ。昼間なら魚を釣りたかったんだがなぁ。怒るな荷物は増やさないよ」 そう言って立髪を撫でる 「しかし、この森は魔獣も現れなくていいな。近辺の国か町の兵か有志が集って害獣除けなどしているのかもな。旅人にはありがたいよ。そういえば以前聞いた盗賊はどうなったんだろうな。殺した人や馬を、こうやって引っ張って投げ捨てるらしい」 裸足になりズボンを膝上まであげ、冷たい川の中に入り馬を手綱で引っ張る 馬は軽く首を振りながら入水する よく冷えていて気持ちがいいようだ 「冷えていて心地いいな。お前も良いだろ?ほら、さっきの話は悪かったよ。こんな綺麗な川なんだ。悪党だって何でもかんでも投げ捨てたりしないさ。第一私らだったらお前が駆け抜けて逃してくれるだろ?私だっていざとなったら助けるから頼むよ」 そんな軽口が出るぐらい気分がいい、あと少し行けば小屋でゆっくり休めるし、楽しみもある。その後の山越えは大変だが焦らず進めればよいだろう 「おや?お前足元になにかいるぞ」 そういうと馬は驚き離れる だがそれは川上から流れたであろう木の枝だった それに気づき馬は男を睨む 「すまないすまない。別にからかったわけじゃないんだ。ん?なんだ、足元を見て。私は引っかからないぞ」 そう言いながらも足に何か当たった感じがするので見やる えっ? 「………………ひぇっ」 驚きすぎて変な声が出た 馬も驚いたのか離れようとしたが男が手綱を持っていたので離れられない 月明かりで照らされた川で流されてきたものは…… 人であった ひ、ひひひひ人が流れてきただだだとっ!? 「なっ、ひぇ、ちょ、引っ張るなぁ。これ、どうしよう。死体か死体なのか!?相棒どうにかしてくれ」 男の懇願にも馬は目を合わせない我関せずである 「っ!?この薄情者!」 仕方ない ひじょーーに嫌だが、骸が可哀想だ せめて川から出してやり土に埋めてやろう 神官ではないが冥福を祈ってやろう… ううっ…… 「ひぇっ」 また変な声が出てしまった いや。声がした 「お、おいお前、生きているのか!?く、仕方ない引き上げるぞ」 そういって自力では無理そうなので手綱を括り付けて引っ張り上げる 「はぁはぁっ、くそ、なんでこんな目に。まずは身体確認か」 パッとみると、とりあえず五体満足のようだ しかし図体のでかい男だ。鎧を着ているのでどこぞの傭兵か若そうだし見習い騎士かもしれない 短めの髪で多分赤みがかった明るいブロンドヘアーだろう 魔法で照らし確認する 育ちのよさそうな見目の良い男だ。どこぞの貴族か商家の坊ちゃんだろうか まぁそんなことより右足、左腕、脇腹、額にそれぞれ怪我をしている 体温も冷えているだろう 呼吸は……うん、止まっているだと!? くそ!仕方ない。顎を上にあげ口を開かせる 「ふぅ、これは人命救助、これは人命救助。罪はない許せ青年、感謝はしろ」 そう言って口付ける さらば清き初めてよ 人工呼吸をすると反応があった ゲホッゴホッ……うっ 溺れていた男は口から水を吐き呼吸を始めた 良かった。それでダメならとりあえず電撃を食らわしていた それがトドメになったら後味が悪い だが。意識は戻らない 仕方ない。簡単に出血がひどい脇腹と左腕を布で止血し 「風よ我が声に答え願いを叶えたまえ汝は我が導なり」 そう詠唱し風の魔法で簡単に服の水を払う はぁ、なんでこんな目に 「よし、早く運ぶかここでは満足に治療できない。相棒、手伝ってくれ」 そういって馬の背に魔術で風の力を借りて乗せる。ちょっと勢い強かったな。逆向きに乗せて折り曲げてしまった。 とどめを刺すつもりはないのだ 荷物紐で結び落ちないようにして急ぎ山道へと戻り駆ける 風の加護を借りて軽くし急ぐ 三分の一の時間で着き。怪我人を運んだ 重かったので引き摺ったすまん 山小屋の中はある程度整備されていた たまに旅人が使うからだろう 急いでランプに明かりを灯し寝台に運ぶ てか重いんだよお前 やはり顔色が悪い、失血もしてるからだろう 先程止血した布はもう赤く染まっていた 「はぁ、仕方ない。できるだけやってやる。だから死ぬなよ生きてくれ」 そう言って治療を開始した。 どうやって鎧なんて脱がせるんだ?めんどくさいなぁ もう適当だ 留め具を外し乱雑に外す ずいぶん上等な鎧だ?どこかの騎士団だろうか印が刻印されている 次は服だ。許せ青年、私も男だ命のためだ 上着は釦なので脱がしやすい。下は留め具を外し脱がせる ううむ。発育がいいみたいだ。今は血色は悪めだが滑らかでよく鍛えられた逞しい身体をしている 下着一枚の彼の体を確かめる そして作業に取り掛かる 鞄から包帯、布、薬液、軟膏などを取り出し 足と腕は折れてはいない……だがだいぶ腫れているな 脇腹の傷は内臓までいたってない様子だ。なら手の施しようはある 額は薬を塗って包帯を巻いとけば良いだろう 「ふぅ……仕上げだ。癒しの光よ汚れなき力で救いたまえ信じ生きるものに救済を」 治療魔術を上乗せしとこう 体が弱っていると死んでしまうだろうから特別にしてやる はぁつかれた。一銭にもならないのになぁ みると怪我人は呼吸が落ち着いて眠っていた 休めば自然と回復し起きるだろう そう考えながら荷物を片付ける 「相棒、すまなかったな。もう休んでくれていい」 そう声をかけるとヒヒンと声をあげ外の馬小屋で休みに行った 自分も疲れ果てた 軽く水布で体を拭き休むとしよう 荷解きと食事は明日にしよう はぁ疲れた しかし寝床のベッドは大きめのが一つ 怪我人の彼は落ち着いた様子だ 仕方ない、今夜はゆっくりベッドで寝たいのだ 静かに彼の横に横たわる 掛け布を自分と彼に掛け明かりを消す 最後の最後になんて大事だ でも、死ななくて良かった まだ余談は許さないが… んん?彼は震えている、のか 寒いのかもしれないな大分失血していたし、川から流れてきたのだ体が冷えて布一枚では寒いのだろう それも僅かに濡れているからな、脱がすか 見ないようにして脱がし布をかける ……仕方ないこれは仕方ないのだよ 今日何回仕方がなかったのだろうか もういいか眠い… 布を手繰り寄せ、裸の男に体を寄せくっつく 少しすると震えが止まった。少しは寒さは緩和しただろうか なら良かった そう思った時、彼が動き怪我のしていない右手で抱き寄せてきて、驚いた私はつい裸の胸にぶつかり、くっついてしまった手に彼は手を重ね、抱きしめられた な、なんだこの状況は 直に伝わる肌の温度が馴染み暖かく、彼の呼吸の度に上下する胸の上で心音を聞くとなぜかひどく落ち着き眠りに誘われる ああ、もういいだろうがんばったのだわたしは うん、寝よう もう考えるのが難しくなったので微睡んだ意識で、 久しぶりの他者の温もりを感じながら眠りについた
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