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その後、2人で映画を見るために、飲み物やお菓子を用意した。
すると突然、夫が、あっ、と声を上げた。
妻がどうしたのかと尋ねると、夫は頬を掻いて言った。
「ポップコーン、忘れちゃった」
なんだそんなことかと、妻は呆れて言う。
「そのくらい、いいわよ。わざわざ買いに行くのも面倒じゃない?」
「いや、買いに行ってくるよ。家の前のコンビニに売ってるだろうから」
「そう?じゃ、気をつけていってらっしゃい」
そう言って、妻は夫を送り出した。
夫が出ている間に、机の上を片付けてしまおうと思い、手際良く皿やグラスを下げていく。
しかし、それらを洗い終わっても、夫は帰ってこない。
不安になって、電話をかけるが、夫は出ない。
それから、またしばらく待ってみたが、まだ帰ってこない。
妻は、待ちきれなくなって外に出た。
そして、マンションを出たところで絶望に襲われた。
マンション前の大きな交差点は通行止めになっており、中央付近には、救急車が止まり、その手前で誰かが倒れている。
救急隊員が蘇生処置をしていた。
処置されている人が着ている服は、つい先ほど送り出した人が着ていた服と同じだった。
信じられなかった。
嘘であると、これは夢なのだと、思いたかった。
体から力が抜けていき、その場に座り込んだ。
交通整理をしていた警官が近づいてきて、何か言ったが、それも聞こえなかった。
その様子を見て、何かを察したらしい警官は女性警察官を呼び、妻を近くに止めていたパトカーの中に連れていった。
彼女の気が確かになったとき、彼女は小さな部屋にいた。
そこはどうやら、病院のある一室らしかった。
目の前には、白衣を着た男性がいた。きっと医者なんだろう。
医者は、彼女に夫の状態について話した。
まあ、彼女の夫はもう死んでいるから、状態も何もないのだが。
とにかく、彼が死んだことを聞かされた彼女。
医者は、かなり取り乱すことを予想していた。
しかし、そうなることはなかった。
むしろ、怖いくらいに落ち着いている。
医者は、慎重に、彼女の様子を見ながら質問する。
「あなたに、謝罪したいという方がいらっしゃるのですが」
彼女は、落ち着いた声で、どうぞ。と答えた。
医者は、奥の部屋から、1人の初老の女性を呼ぶ。
その女性は、詫びの言葉を述べて彼女に深く頭を下げた。
彼女は、謝る女性に対して、
「過ぎてしまったことは、どうしようもありません。謝って頂かなくて、結構です。」
そう、言い放った。
女性は、どうしたらいいのかわからなくなったのだろう、もう一度深く頭を下げると、足早に奥の部屋へと戻っていった。
そして、彼女は立ち上がり、もう帰ります。と言って部屋を出て行こうとする。
医者が歩き出す彼女に言う。
「余計なことをしてしまったようで、申し訳ございませんでした」
振り返った彼女は悲しげな笑みをたたえ
「いえ、大丈夫です」
そう言って、前を向き、歩き出した。
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