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 里美のミーティングが終わるまではホームページ経由の問い合わせ対応をしつつ、電話対応なども臨機応変に動かなければ仕事が各所で滞る。  朱鳥が何件かのカスタマーサポートの対応を終えた頃に、ちょうどミーティングを終えた里美が戻ってきて隣の席に着いた。 「あー。疲れたー」 「お疲れさん。くたびれてるところ悪いんだけど、早速引き継ぎ業務の確認させてもらっていいかな」 「そうだった、それも優先事項だね。私が年内在籍とは言え、引き継ぐとなると時間は有限だもんね」 「そうよ、異動じゃないし後々聞けないから。マニュアルも、叩きでいいから出せって真藤さんに言われてるでしょ」 「ああああ。朱鳥ちゃんが容赦ないー」 「いや、仕事だからね?」  里美が受け持つのは主に経理処理で、朱鳥がメインで受け持つ人事労務とは一切毛色が違う。  月初の締め作業で店舗からの不備連絡や問い合わせが立て込んでいる中、隙間をみつけては業務引き継ぎを進めて、忙しなくメモと画面に視線を走らせる。 「あーもう。今日は勘弁して」  里美が長らく続いた電話応対を終えて悲鳴をあげる。 「まあ、店舗はお客様の対応をしながら締めてる訳だし。こっちは合わせるしかないよね」 「にしても、毎月やってくる月末月初のこの忙殺されて仕事が進まないのはね」 「慣れないよね。私も久々にこの忙しさを思い出した」  そこからはバタバタと時間が過ぎた。  予想はしていたが、昼食もコンビニのおにぎりとサラダで済ませて、里美から引き継ぐ業務の確認作業で一日が潰れた。 「ふう……お疲れ。とりあえず今日はこの辺で区切って上がろうか」  時刻は七時過ぎ。里美は朱鳥の入力したデータを確認すると、問題なさそうだねと表情を緩めてオッケーを出す。  彼女は業務の合間に作成していたマニュアルをプリントアウトすると、パソコンの電源を落とし、既に仕事を終えて不在の真藤のデスクにメモを添えた書類を置く。 「へえ。もうマニュアル出来たんだ」 「まあ、ちょっと前から作ってはいたし。でもあくまで(仮)だから、真藤さんにチェック入れてもらわないとなんとも言えないのがたまにキズだね」 「そりゃ仕方ないでしょ。でもそれがあれば、引き継ぎに割く時間も減るし効率よくなるんじゃない?」 「そうなんだよね。朱鳥ちゃん含めて引き継ぎ相手が業務ごとに分散してるから、本当そこに期待したい」  バタバタと帰り支度を済ませる里美を見ながら、朱鳥は小さく伸びをするとデータを保存してパソコンの電源を落とした。 「じゃあ、お先です。朱鳥ちゃん、また明日ね」 「お疲れ」  里美を見送り、朱鳥も帰り支度を始める。とは云えデスク周りも整頓したので、あとはマフラーを巻いてコートを着込むだけだ。  身支度を整えていると、斜向かいの賀茂川聡志(かもがわさとし)から声を掛けられる。彼は朱鳥の二歳上で部内のマネージメントリーダーだ。 「待田さん、お疲れ。初日はどうだった?」 「あー。戻ってきたなって感じです。慣れない仕事もありますけど、やっぱり楽しいです」 「はは、そうか戻ってきた感じか。俺は待田さんがいた頃は営業で接点なかったしな。ま、その調子で無理のないようにね」 「ありがとうございます。では、お先に失礼します」  賀茂川と他にも残っている社員に挨拶をすると、朱鳥はフロアを出た。  エレベーターホールで何人か見知った顔に再会して談笑をしていたが、急にお腹が痛くなってその場を離れると、慌ててトイレに駆け込んだ。  昼に食べたサラダが傷んでたのだろうか。洗面台で手を洗いながらお腹をさすると、少しだけ化粧を直してからトイレを後にする。 「はあ……一度経験したこととは云え、やっぱり一から覚え直してガッツリ頑張らないとな」
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