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 お気に入りだったベッドカバーとカーテン、二人掛けの少し窮屈なヴィンテージソファー。どれも一人暮らしが嬉しくて真剣に選んだ物。  ああ……こんな間取りだったっけ、懐かしいな。  今見えている光景、このシーン。正確にはこの後にどんな事が起こるか、嫌と言うほど知っている。  信じていたものは、がらんどうのハリボテだった。 『ぁ……はぁあ』  荒い息遣い、顔はもうよく思い出せないからか、そこだけ靄がかかったようにぼんやりとしている。  いつも単調で暴力的なセックスの後、閉じ込められるようにその腕の中に抱かれたまま眠る。それは決して気持ちが良い、安らぐものとは程遠い行為だった。  そんなものが楽しい訳もなく、そんな関係の限界も見えていた。  それでも、どこかで相手に好かれているのだと信じたかったし、必要なコミュニケーションなのだと言い聞かせて耐えていた。  それなのに。  これから見せられるのは、その下手くそで独りよがりなセックスから解放された瞬間の出来事だが、それはあまりにも酷い捨てられ方だった。  ああ、胸糞悪い光景だな……見たくない。思わず目を覆いたくなるが、無遠慮に光景は進んでいく。  男は息を殺し、自分本位に腰を揺らして身勝手に達する。  そのまま女には背を向け、避妊具の処理をしてゴミ箱に捨てたそれと同様に、何か酷い言葉を吐き捨てるように呟くと、いそいそと脱ぎ散らかした衣服を拾い上げて鼻歌を歌い出す。  上機嫌な男に対して女の方は、あまりにも突然の出来事に何の聞き間違いかと耳を疑う。かいつまんで表現すれば、今この男にこれ以上ない罵声を伴って、もうこれが最後だと告げられた。  だからこそ、あまりにも楽しそうに帰り支度を始める男の背中に向かって、確認するように声を掛けざるを得なかった。 『え、今なんて言った?』 『あ?もう終電は間に合わねぇからタクシーだなって』 『いや、それじゃないよ』 『ああ?二回も言わせんなよ。単身赴任中のシモの処理、世話してくれて助かったって礼だよ。やっぱ風俗行くとなると金掛かるしなぁ』 『……は、え?』 『なに。まさかお前、この人と数年後には結婚。とか妄想してた?』  嘲笑する男の歪んだ笑顔は初めて見る表情だった。 『ちょ、待って。え?奥さん……いるの』  女はガバッと身を起こし、慌てて出た声が大きくなる。  知らない。男が既婚者だなんて、そんなことは一度も聞いていないし、まずそんなややこしい人ならば付き合ったりしない。  付き合いだって半ば惰性になってきて、うんざりしていたところだ。こんな独りよがりな男と結婚する気など更々無い。  女は本当に、気付くどころか知らなかったのだ。 『何お前、マジで気付いてなかったのかよ。こんな状態が付き合ってるとか、ねぇだろ』  ウケる!とお腹を抱えて笑う男の姿を見て、自分は付き合っている恋人どころか浮気相手ですらなく、シモ処理専用の世話係などと蔑まれる程度の遊び道具でしかなかったと知らされる。  突然降って沸いた事実に頭の処理が追い付かない。怒りが込み上げて言い返したいのに言葉が声にならない。  言葉を失って呆然としていると、男はどこから取り出したのか、今まで見せたこともないプラチナリングを左の薬指にはめている。  そんな左手で女の頭を撫でると、心底楽しそうに耳元に囁いた。 『いや助かったわ。お前みたいなチョロいのが釣れて』  ケタケタの笑う悪意に満ちた顔が忌々しい。 『……ああ。あんたのは、オナニーだから毎回レイプまがいで下手くそだったんだ。こちらこそ、やっと縁が切れて嬉しいわ』  どうにか絞り出した声で吐き捨てた女の言葉に、男は表情を歪めて舌打ちすると、マグロのクセに調子に乗るなと低俗な捨て台詞を残してその場から去って行った。
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