夕立のあとには……

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電車に揺られるうちに、どんどん雲行きがあやしくなってきた。 すると、突然、そこから線を引いたような大雨の中に突入する。 「ぅわっ! すごっ」 私は思わず呟いた。 「ああ、すごいな」 そう答えた飛鳥は、私と一緒に窓の奥の空を見上げる。 少し後方に目をやると、 「ねぇ、見て。あそこから先はまだ晴れてるよ」 雨の向こうに太陽を受けてキラキラ輝く鉄塔が見える。 「ほんとだ。すごいな」 私たちは、さっきの言い合いも忘れて、並んで外を眺めた。 程なくして、電車は私たちの最寄駅へと滑り込む。 私たちは、いつものように改札を抜け、出口まで来て、止まった。 「あーあ、日和が夕立とか言うから」 飛鳥は、あきれたようにつぶやいて、真っ黒な雨雲を見上げる。 私はサブバッグから折り畳み傘を取り出すけれど、飛鳥は空を見上げたまま。 「飛鳥、傘持ってないの?」 私が尋ねると、飛鳥は、短く 「ああ」 と答えた。 「しょうがないなぁ」 私は広げた傘を差し出す。 「ほら、一緒に入れば?」 飛鳥はそれを見て、一瞬、ためらうように息をのんだ後、 「じゃあ、俺が持つ」 と言って、私の手から傘を取り上げた。 左手に荷物、右手に傘を持ち、私に差し掛ける。 私は、ソフトボール1個分くらいの距離を取って、飛鳥に並ぶ。 昔は平気で手を繋いでたのに、いつからこんな風に隙間を開けるようになったんだろ? いつからか覚えてないけど、飛鳥と手を繋がなくなって、もう10年くらい経つんじゃないかな。 最後に手を繋いだのっていつだっけ? そんなことを思いながら歩いていると、飛鳥がいらだったように口を開く。 「日和、なんで逃げるんだよ? 俺が寄っても寄っても逃げるから、反対側が濡れてるじゃん!」 えっ、だって、こんなに近くで歩くの久しぶりなんだもん。 飛鳥は、足を止めると、そのまま私の背後から反対側に回った。 なに? 私が思う間もなく、飛鳥は荷物を持った左手で私の肩を抱き寄せた。 えっ、うそ…… こんなことされるの初めてで、どうしていいか分かんない。 心臓がドキドキと跳ね上がり、歩き方もおぼつかなくなる。 さっきまでポンポン出てた言葉も出てこない。 飛鳥、しゃべってよ。 そう思って、そっと隣の飛鳥を見上げるけれど、飛鳥は無言のまま真っ直ぐ前を向いて歩いている。 なんで?
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