夕立のあとには……

2/9
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
ふぅ…… 小さく息をついた私は、パタンと学級日誌を閉じた。 日直は2人いる。 私と野村さんって女の子。 でも、実際に日直をやってるのは私だけ。 なんでこんなことになっちゃったんだろう。 ◇ 私には幼馴染みがいる。 倉持 飛鳥(くらもち あすか)17歳。 家が近所で、生まれたのも10日違い。 母たちは、私たちが生まれて間もなくの頃からお互いの家を行き来してた。 私たちが仲良く遊んでるのを横目に、お茶して、おしゃべりして、子育ての悩みを相談してた。 私たちは、当然のように同じ幼稚園に通い、同じ小学校に通い、現在、高校2年生に至るまで、ずっと一緒に過ごしてきた。 変わり始めたのは、中学生の頃。 小さい頃から、私より可愛かった飛鳥は、名前の響きもあって、いつも女の子と間違われてた。 それが、中学生になり、背が伸び始めると同時に、綺麗に整った顔立ちに、どこか男らしさも加わり、一部の女子からキャーキャーと騒がれるようになった。 でも、飛鳥はやっぱり飛鳥のままで、誰から告白されても付き合うことはなかった。 そんな中学3年のある日。 「ああ、もう無理だ! 全然、分かんねぇ!」 期末テストまで1週間を切ったある日、飛鳥は、教室の左前方にある自分の席に座ったまま、英語の教科書で顔を覆い、音を上げた。 そして、くるっと振り返り、教室の右後ろの方に座る私に向かって大声で叫ぶ。 「なぁ、日和(ひより)! 今日、お前んち行っていい? 英語、教えて!」 教室の反対の角まで届くような声で叫べない私は、ただ無言で頷いた。 それからだった。 周りの態度が変わったのは。 初めは、飛鳥への橋渡しを頼まれることが多かった。 飛鳥と出かけたいから、予定を聞いて欲しいとか、飛鳥に好きな人はいるのか聞いてきて欲しいとか。 でも、飛鳥は、私がそんな橋渡しをすると、決まって機嫌が悪くなる。 「そんなに知りたかったら、自分で聞きに来いって言っといて」 私の橋渡しに、全く効果がないと分かると、今度はいじめに変わった。 初めは陰口だった。 「ただの幼馴染みのくせに、彼女ヅラしてんじゃねぇよ」 すれ違いざまに、ボソッとそんなことを呟かれる。 私は別に彼女ヅラなんてしてないのに。 けれど、別に無視されても悪態をつかれても、もうすぐ卒業。 休み時間も受験勉強してれば、友達がいなくてもいい。 それに、彼女たちは、飛鳥がいるところでは、決していじめてこない。 随分、打算的ないじめだなとは思うけど、私は全く気にしないことにした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!